イアエ
Iae
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Iae
Iachadiel
マグレガー・メイザース(Samuel Liddell MacGregor Mathers)の「ソロモンの大きな鍵(The Key of Solomon The King)」において、「アザレル(Azarel)」とともに月の第5のペンタクルにヘブライ文字で記される天使。破壊と損失に寄与する天使であり、死者の魂を呼び出すことができるという。
Jaculus, Iaculus
中世のヨーロッパにおいて、動物寓話集に描かれた怪物。複数形では「イアキュリ(Jaculi)」。ローマ帝国の詩人マルクス・アンナエウス・ルカヌス(39-65)が著した叙事詩「ファルサリア(Pharsalia)」に言及されており、そののち動物寓話集にもみられるようになった。翼の生えた巨大な蛇のような姿をしており、二本の足が生えていることもあった。高い木に登り、枝の中に身を潜め、獲物が通りかかると背中に飛び乗って首に噛み付き息の根を止めるとされる。イアキュルスという名前は「槍」を意味し、この奇襲方法を元に名付けられたものとされる。
「自然の魅力(Der naturen bloeme/The Flower of Nature)」(1350)より
ページ:f124vb
ヤーコブ・ファン・マールラント(Jacob van Maerlant)著
オランダ国立図書館(Koninklijke Bibliotheek/Royal Library of the Netherlands)蔵
Copyright : public domain
Iadalbaoth
Iak Im
Iameth
コニベア(Conybeare)の「ソロモンの誓約(The Testament of Solomon)」などに言及される天使。「イァメト(Jameth)」とも呼ばれる。海馬の悪魔クノスパストンに対抗できる唯一の天使だとされる。
Jarnsaxa, Iarnsaxa
Eeyeekalduk
イヌイットにおける善良な精霊。黒い小人の姿をしている。薬と健康を担う精霊であり、病気を癒すために呼び出される。ただ、イーイーカルドゥクの目を見るのは危険だとされている。
いいなのかみ
「常陸国風土記」に見える神。信太郡の高来里(たかくのさと=現在の茨城県稲敷郡阿見町竹来)の条で、筑波岳に鎮座する神で、高来里の西にある飯名社はその別属(分社)であると記されている。ここでいう「筑波岳に鎮座する神」とは茨城県つくば市臼井の「飯名神社(いいなじんじゃ)」と比定されているが、「高来里の西にある飯名社」については諸説あり判然としない。
いいもりのおおとじ
「播磨国風土記」に見える女神。元々は讃岐国宇達郡の「飯神(いいのかみ)」の妻神であったが、播磨国揖保郡香山里(現在の兵庫県たつの市の一部)に海を渡ってきてこの地の山を占めたので、その山は飯盛山と呼ばれるようになったという。ここでいう飯神とは、香川県丸亀市飯野町の「飯神社(いいじんじゃ)」で主祭神として祀られる飯依比古だと考えられるので、飯盛大刀自は飯依比古の妃神ということになる。
いいよりひこ
Jeqon, Yeqon
Jezi Baba
Yetarel, Yeter’el
Yeitso
Yehadoriel
Jehiel
Yefefiah, Yefehfiah
Jehuel
Jehoel
Yarikh
フェニキア神話における月の神。妻は同じく月を司る女神である「ニッカル(Nikkal)」。
Jeremiel
Yero
Yenrish
北アメリカのネイティブアメリカンの一部族、イロコイ族に属するワイアンドット族やヒューロン族に伝わる怪物。五大湖の一つであるエリー湖に棲んでいるライオンに似た怪物とされる。
Io
Iofiel, Iophiel
Eager
イギリスのノッティンガム地方において、川で働く船頭達の間で知られる邪悪な精霊。トレント川に住んでいて洪水の原因となる潮津波(満潮の時に河口から海水が高波を伴ってさかのぼる現象)を起こすとされる。
イーガーの名は海神エーギルに由来するか、あるいはゲール語の「エフ(Each=馬の意)」に由来するものと思われる。
いかこやひめ
「山城国風土記逸文」に登場する女神。伊賀古夜日売の他に同訓で「伊可古夜日女」の表記も見える。また「神野伊加許也姫神(かんのいかこやひめのかみ/かむぬいかこやひめのかみ)」の名でも呼ばれる。「山城国風土記逸文」に拠れば賀茂氏の祖神である賀茂建角身命は、丹羽国(現在の兵庫県)の「神野(かみの)」の神であった伊賀古夜日売を娶ったという。ここで言及される「神野」とは現在の兵庫県丹波市氷上町御油にある「神野神社(かんのじんじゃ)」のことと考えられるが現在の神野神社は伊賀古夜日売を祭神としない。神名の「イカコヤ」の名義ははっきりとはしないが、子神の説話に丹塗り矢が登場することから「赫矢(かぐや)」と関連しているのではないかと考えられる。賀茂建角身命との間に「玉依日子(たまよりひこ)→建玉依比古命」、「玉依日売(たまよりひめ)→建玉依比売命」を生み、このうち玉依日売は賀茂別雷命の親となった。
夫神の賀茂建角身命や子神の建玉依比売命とともに式内社「賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)」の摂社である「三井神社(みついじんじゃ)」に祀られる。
いかすりのかみ
神道において宮中において座摩巫(いかすりのみかんなぎ)によって祀られた、宮中を護る、生井神、栄井神、綱長井神、波比岐神、阿須波神の五柱の総称。「座摩」は「坐摩」とも書き、また「ざま」と読む場合もある。「延喜式」においては「座摩巫祭神(いかすりのみかんなぎのまつるかみ)」の名で記載されるほか、「坐摩大神(いかすりのおおかみ)」の名でも呼ばれる。「イカスリ」の語義については諸説あるが、井戸、あるいは居る処を領(し)る=領有するといった意味ではないかと考えられている。
上述の通り宮中で祀られたほか、大阪府大阪市中央区にある「坐摩神社(いかすりじんじゃ)」や、大阪府岸和田市積川町にある式内社「積川神社(つがわじんじゃ)」、福井県福井市にある「足羽神社(あすわじんじゃ)」などで祀られる。
いがつひめ
伊賀津姫
Ika-tere
ニュージーランドのマオリ神話に登場する、全ての魚の祖先となった神。名前は「泳ぐ魚」を意味する。プンガの息子でありトゥ=テ=ウェイウェイとは兄弟だが、嵐の神タフィリ・マテアが神々への復讐のために襲ってきた時、イカ・テレは海へ、トゥ=テ=ウェイウェイは陸地へと逃げたためそれぞれ魚の祖先、爬虫類の祖先となったされている。
いかりひめのみこと
いがりひめのみこと
日本の神道における女神の一人。伊勢神宮外宮の豊受大神宮の末社である「伊我理神社(いがりじんじゃ)」に祀られる神。「類聚神祇本源」に引かれる「長徳検録」の記述から、過去の伊我理神社は豊受大神宮の御常供田(みじょうくでん)のすぐそばの場所で、御常供田の種下始めの神事のことを「鍬山伊我利神事(くわやまいがりのしんじ)」と呼んでいたことから、神田と深い関係がある神であったと考えられる。このことから「伊我利」とは「五十苅(いかり)」、「稲許(いがり)」など稲田を表す言葉を元にしたものではないかとされる。前述のように伊我理神社で祀られるほか、伊勢神宮内宮の皇大神宮の別宮である月讀宮の末社である「葭原神社(あしはらじんじゃ)」には五穀の神の一柱として「伊加利比売命(いかりひめのみこと)」という神が祀られている。
Igaluk
主にグリーンランドに住むイヌイットが信じる月の神の名称の一つ。太陽は彼の妹だという。アリナックとは逆だが伝わる説話は似通っている。ある時イガルクとのその仲間は太陽が昇らない冬の時期に真っ暗になったイグルー(氷のブロックの家)の中で遊んでいた。イガルクはそれまで寄り添って愛し合っていた女が誰だか知りたくなり、女を外に連れ出して松明を付けて見たところところ、なんと相手は妹だった。イガルクの妹は恐れのあまり乳房を引きちぎり、兄に投げ捨て松明を手に空に飛んでいってしまった。イガルクも後を追ったが彼の手にしていた松明は途中で燃え尽きてしまった。こうして彼らは今ある月と太陽になったという。
Yì-guǐ
中国の民間伝承において、首をくくって自殺した人間が変化したもので鬼の一種。自殺した人間は転生することも地獄で仕事につくことも出来ず縊鬼となる。彼らは自殺という罪のために夜毎自分が首を吊った場所に訪れては自分の自殺を再現しなければならない。運悪く縊鬼に出会った人間はその怨念を背負わされ、同じように首をくくる目に会うという。
Mānavajriṇī
いきすだま
日本における憑依形態の一つ。「窮鬼」の字を当てることもある。また「生霊」で「いきりょう」と読むこともある。生きている人間の怨念が飛び、怨念を晴らすため対象となる者にとり憑いて殺したり、あるいはその近縁の者にとり憑いて害をなしたりする現象を言う。元となる人間が寝ている間に魂が抜け出る場合が多い。平安時代に生霊が飛ぶことを「あくがれる("場を離れる"の意)」と言ったが、この言葉は現在の「憧れる」の語源とされる。「源氏物語」の六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の生霊の描写は有名。
Wèi-yú
中国において最古の地理書とされる「山海経」に記されている怪魚。西山の楽遊山に流れる桃水に多く生息している。その姿は四足のある蛇のようだという。
「山海經(せんがいきょう)」(不明)より
ページ:v01p049
郭璞(伝)著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
Copyright : public domain
いくいのかみ
「延喜式」に名が見える神。宮中において座摩巫(いかすりのみかんなぎ)によって祀られた、宮中を護る「座摩神」の五柱のうちの一柱とされる。住地と水、とくに御溝水(みかわみず=庭を流れる水)を司る神とされる。また神名の「イク」とは水がもたらす生命力を讃え、御饌として捧げられる御水の元となる井の水を神格化したものと考えられる。大阪府大阪市中央区にある「坐摩神社(いかすりじんじゃ)」、大阪府岸和田市積川町にある式内社「積川神社(つがわじんじゃ)」などに坐摩神として祀られる。
いくぐいのかみ
日本記紀神話に登場する女神。男神角杙神とともに神世七代の第四代を成す。古事記では「活杙神」、日本書紀では「活樴尊(いくぐいのみこと)」と表記される。「活」は生命力のこと、「杙」は土止めに打つ杭、あるいは「涙ぐむ」「芽ぐむ」などの接尾語「ぐむ」、つまり何かが現われ始めることを指すと考えられている。つまり土壌が磐石になり生命力が芽吹き始めることを神名として表したものだと考えられる。生魂神と同体とされることもある。島根県大田市川合町にある「物部神社(もののべじんじゃ)」の境内末社である「神代七代社(かみよななよのやしろ)」や、茨城県久慈郡大子町の「十二所神社(じゅうにしょじんじゃ)」などに他の神世七代とともに祀られる。
いくしまのかみ
延喜式にその名が見える神。「生島(いくしま)」、「生島大神(いくしまのおおかみ)」、「生国魂大神(いくくにたまのおおかみ)」、「生国神(いくくにのかみ)」の名でも呼ばれる。宮中において祀られた三十六座の神の一柱で、大八洲(おおやしま)、つまり日本国土自体の神霊であり、国土に備わった生命力を神格化した神と考えられる。足島神とともに「生島巫(いくしまのみかんなぎ)」と呼ばれる者達によって奉斎された。神武天皇(→神倭伊波礼毘古命)が即位にあたって祀られるようになった神だとされる。足島神とともに大阪府大阪市天王寺区生玉町にある式内社「生國魂神社(いくくにたまじんじゃ)」、長野県上田市下之郷にある式内社「生島足島神社(いくしまたるしまじんじゃ)」などで祀られる。
いくたまさきたまひめのかみ
「古事記」において、大国主神の子孫の系譜が語られる段に記されている女神。比比羅木之其花麻豆美神の子神であり、多比理岐志麻流美神とともに美呂浪神の親とされる。名前の「イクタマ」は「生魂(生み出す霊威)」、「サキタマ」は「幸魂」を示すと考えられる。
いくたまよりびめ
「古事記」や「日本書紀」に言及される大物主大神(→大国主神)の妃神の一柱。古事記では「活玉依毘売」、日本書紀では「活玉依媛(いくたまよりひめ)」、「先代旧事本紀」では「活玉依姫(いくたまよりひめ)」と記載される。陶津耳命の娘で古事記では櫛御方命の親とされるが、日本書紀では意富多多泥古命の親とされ中途の系譜が略されている。また先代旧事本紀では事代主神の妃神とされ「天日方奇日方命(あめひがたくしひがたのみこと/あめのひかたくしひかたのみこと)→櫛御方命」と姫蹈鞴五十鈴姫命を産んだとされ、同じく大国主神の妃神である勢夜陀多良比売との混同が見られる。活玉依毘売という神名は「神霊が憑依する乙女」としての総称の「玉依毘売命」から発展したものと考えられ、このために複数の女神の混同や習合があったものと思われる。
古事記に拠れば活玉依毘売は両親の知らないうちに身ごもっていたため、両親が活玉依毘売に事情を聴くと、夜になるとやってくる若者と契りを交わしたのだという。両親は夜にしか現れない若者を不審に思ったため、その若者が来たら苧環(おだまき=糸巻きのこと)の糸を針に通して男性の衣の裾に通すように活玉依毘売に言った。翌朝にその糸をたどってみると三輪山の社まで続いていたため若者が大物主大神だと分かったという。この時苧環に残った糸が「三勾(みわ)="三巻き"のこと」だけだったことから、この地を三輪(みわ)と呼ぶようになったのだという。
前述の説話にある三輪の神社、つまり「大神神社(おおみわじんじゃ)」の摂社である「大直禰子神社(おおたたねこじんじゃ)」に祀られるほか、高知県香美市香北町にある「大川上美良布神社(おおかわかみびらふじんじゃ)」、埼玉県久喜市鷲宮にある「鷲宮神社(わしのみやじんじゃ)」の境内社である「姫宮神社(ひめみやじんじゃ)」などに祀られる。
茨城県の海に棲んでいたとされる長さ数kmの巨大な海蛇の一種。「イクジ」とも呼ばれる。津村淙庵の「譚海」に記述がある。それによるとイクチはあやかしと同種のものらしく、船を見つけると近づいてきて、船を乗り越えていくのだという。それだけで船を破壊したりはしないのだが、イクチの身体からは大量の油が染み出して船の中に溜まるので、くみ出さなければ船が沈んでしまうという。あやかしより小さいもののその身体は巨大で、数時間かけて船を越えるという。
いくつひこねのみこと
Ictinike
アメリカのネイティブアメリカン、スー語族に属するアイオワ族における戦の神。人々はイクティニケから戦い方を学んだとされる。ただイクティニケの伝説においての戦い方とは人を欺く策謀であったりするので、イクティニケはトリックスターともされる。
Ichthyocentaur, Ichthyocentaurus
3世紀にアレクサンドリアで描かれたとされる「フィジオロゴス」や中世の動物寓話集に登場する混成生物の一種。ヒッポケンタウロスの後ろ足部分が魚(特にイルカ)の尾に置き換わったもの。根拠となるべき古典時代の文書は現存しないが、その後も18世紀に至るまでヨーロッパの陶器や金属製品の表面を彩った。
Iguma
フランス南西部やスペイン北西部に住むバスク人の民間伝承に登場する邪霊。夜が更け誰もが眠った頃にそっと民家に忍び込み、眠っている人間を窒息死させるという。
いくまのかみ
いくむすびのかみ
Iggereth Bath Mahalath
いけぶくろのおんなのかいい
江戸時代末期における俗信で、池袋出身の女を召使いとして雇うと、その屋敷に石や瀬戸物、瓦などが降ってきたり、行灯や臼や火鉢が踊りだすといった怪異が起こるという。池袋に限らず沼袋(中野区)や池尻(世田谷区)出身の女でも同じことが起こったという(地名からして池袋の怪異からの派生であろうか)。「十方庵遊歴雑記」などにその様子がかかれていて、祈祷や効験も何も効果がなかったが、その召使いを暇を出したところ怪異はぴたりとやんだという。当時は産土神(土地の守護神)が他の地へ氏子が移るのを惜しんで怪異を起こしていると考えられたが、一方で召使い達による自作自演ではないかともされていた。
Yikon
Izachim
いざなぎのまなこくまのにますかむろのみこと
「出雲国風土記」や「延喜式」中の「出雲国造神賀詞」などに言及される神。出雲国風土記では「伊奘奈枳乃麻奈子坐熊野加武呂乃命」、延喜式では「伊射那伎日真名子加夫呂伎熊野大神櫛御気野命(いざなぎのひまなこのかむろぎのくまのおほかみくしみけぬのみこと)」の名前で記載される。また「奇御気野命(くしみけぬのみこと)」、「櫛御毛野神(くしみけぬのかみ)」、「熊野加武呂命(くまのかむろのみこと)」、「熊野加武呂岐櫛御気野命(くまのかむろぎくしみけぬのみこと)」などの名前でも呼ばれる。「伊奘奈枳乃麻奈子(いざなぎのまなこ)」とは即ち「伊邪那岐命の愛子」という意味であり、伊邪那岐命の御子神の中でも特別視される須佐之男命を指すと考えられる。ここでいう熊野は和歌山の熊野三山のことではなく、島根県(出雲)の熊野(現松江市八雲町熊野)のことであり、この地にある「熊野大社(くまのたいしゃ)」の祭神を指している。別名に見える「クシミケヌ」とは「奇(く)し御食(みけ)野(ぬ)」、つまり「優れた穀物の生える野」という意味だと考えられ、須佐之男命の妃神とされる「櫛名田比売(くしなだひめ)」の「クシナダ」との共通性が見て取れる。
熊野三山の一柱である「熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)」、あるいは「家都御子大神(けつみこのおおかみ)」と同一視される。前述の熊野大社のほか、全国の「熊野神社(くまのじんじゃ)」の中には祭神として櫛御気野命と「事解之男神(ことさかのおのかみ)」、「速玉之男神(はやたまのおのかみ)」の三柱の神を祀ることも多い。
いざなぎのみこと
日本記紀神話において、国産みを行った2対の神のうちの男神で高天原の神。「伊弉諾神」とも書く。神名は「誘(いざな)う男の神」を意味する。神世七代の最後の神であり、また神話上で一番最初に出てくる夫婦神である。伊邪那美命と結婚して14の国(大八洲の国)を誕生させたり(=国産み)、万物を司る35柱の神々を誕生させたり(=神産み)したことから、国固めの神、生命の祖神とされている。水蛭子、石土毘古神、大山津見神、保食神、火之迦具土神などは全てのこの夫婦神の子神である。火之迦具土神を産んだために死んでしまった伊邪那美命を追って死後の世界である根国(ねのくに)に赴いたが、結局伊邪那美命は生き返ることが出来ず、伊邪那岐命はこの世に逃げ帰り、禊祓(みそぎばらい)を行い、この世の代表者となった。禊祓の際生まれた三貴神、天照大御神、月読命、須佐之男命にそれぞれ「高天原(たかまがはら)」、「夜食国(よるのおすくに)」、「海原(うなばら)」を治めるように命じてからは、ほとんど神話に登場しない。
江戸後期
玉蘭斎貞秀著
「神佛図會」より
国立国会図書館蔵
Copyright: public domain
天神㐧七代
近江國多賀大明神
伊弉諾尊󠄂 陽神 二万三千四百
加賀国白山権現
伊弉冉尊󠄂 陰神
大八州開基御神此二柱君臣立玉イ夫婦兄弟ノ如ク前ノ神君ンオ教ヲ守玉イ/㐧一ニ君臣ヲ奉リ父母ヲ勤労婦夫ノ間美シク兄弟朋友ヲ親ミ深ク交ルヲ諸神ニ守ラシム/帝王妃ハ天地群臣万物ニ德ヲ比ス/天ト云バ日月星辰/国ト云バ山川/根ト云バヨシ/海ト云バ魚龍ニ比スコト常ナリ故ニ天子ハ其德天下ヲスベシリ玉イテ天津神諸矦ハ國津神諸臣ハ司々有ハ八百万神ト云凢リ四代ノ神皆国常立ヨリ出テ各同血 ノ別流シテ後世臣下?ナリ/力子黒ニシテ二君ニ仕ザル義ナリ/六代ノ末王ノ命ニ叛ノマツロハヌ神有テ是ニヨリテ亀甲ニ習ヒ甲冑ヲ作リ戎服トシ遂兵数万四方ヘ天ニ降セ伏セ玉フ/是将征伐ノ初ナリ/二神亦天浮橋ニ立テソコニ國有ベシトシテマヅ天ノサカ戟ノ勢ヲ入テ国中ヲサグラシムニ一嶋皆服ス是ノ嶋ハ淡路嶋ナリ此嶋ノ一宮ハ伊弉神社ナリ/此嶋八尋ノ木ノ丸殿ヲ作リ天ノ御柱ト定メ住セ玉フテ亦大八州ヲ治メ玉フ。淡路。伊豫。筑紫。壹伎。對馬。隱伎。佐渡。大和。八州ナリ
いざなみのみこと
日本記紀神話において、伊邪那岐命と共に国産みを行った女神。神世七代の最後の神。「伊弉冉尊」とも書く。神名は「誘(いざな)う女の神」といった意味。火之迦具土神を産んだとき陰部を火傷して死に、根の国(=死の国)の住人となる。伊邪那岐命が追ってきたものの、「黄泉戸契(よもつへぐり=死者の食べ物)」を食べてしまった為この世に戻れなくなり、根の国の女王となる。伊邪那岐命とともに創造神、万物を生み出す力の象徴であり、また人間の寿命を司る。根の国まで伊邪那美命を追ってきた伊邪那岐命は、ただれ様変わりした妻の様子に仰天して根の国を逃げ出し、根の国と現世との境である「黄泉津平坂(よもつひらさか)」で相対し、伊邪那岐命に向かって「地上の人間を一日に千人殺す」と言い放つ。それに答えて伊邪那岐命は「一日に千五百人の産屋を立てる」を言い放ち二人は縁を切り、それぞれ、あの世とこの世の支配者となったという。以上の説話から「黄泉津大神(よもつおおかみ)」、「道敷大神(ちしきのおおかみ)」という異称を持っている。
江戸後期
玉蘭斎貞秀著
「神佛図會」より
国立国会図書館蔵
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天神㐧七代
近江國多賀大明神
伊弉諾尊󠄂 陽神 二万三千四百
加賀国白山権現
伊弉冉尊󠄂 陰神
大八州開基御神此二柱君臣立玉イ夫婦兄弟ノ如ク前ノ神君ンオ教ヲ守玉イ/㐧一ニ君臣ヲ奉リ父母ヲ勤労婦夫ノ間美シク兄弟朋友ヲ親ミ深ク交ルヲ諸神ニ守ラシム/帝王妃ハ天地群臣万物ニ德ヲ比ス/天ト云バ日月星辰/国ト云バ山川/根ト云バヨシ/海ト云バ魚龍ニ比スコト常ナリ故ニ天子ハ其德天下ヲスベシリ玉イテ天津神諸矦ハ國津神諸臣ハ司々有ハ八百万神ト云凢リ四代ノ神皆国常立ヨリ出テ各同血 ノ別流シテ後世臣下?ナリ/力子黒ニシテ二君ニ仕ザル義ナリ/六代ノ末王ノ命ニ叛ノマツロハヌ神有テ是ニヨリテ亀甲ニ習ヒ甲冑ヲ作リ戎服トシ遂兵数万四方ヘ天ニ降セ伏セ玉フ/是将征伐ノ初ナリ/二神亦天浮橋ニ立テソコニ國有ベシトシテマヅ天ノサカ戟ノ勢ヲ入テ国中ヲサグラシムニ一嶋皆服ス是ノ嶋ハ淡路嶋ナリ此嶋ノ一宮ハ伊弉神社ナリ/此嶋八尋ノ木ノ丸殿ヲ作リ天ノ御柱ト定メ住セ玉フテ亦大八州ヲ治メ玉フ。淡路。伊豫。筑紫。壹伎。對馬。隱伎。佐渡。大和。八州ナリ
Isheth Zenunim
いしがんどう
日本における民俗信仰で、丁字路の突き当たりや辻角に置かれる魔除けの石碑のこと。「石敢當」で「せきかんとう」、「せきかんどう」と読む場合もある。また「當」は「当」の旧字であるので現在であれば「石敢当」と書く。この石碑は一般的に「石敢當」、「石散當」、「石厳當」などの字が刻まれるシンプルなものだが、上部に鬼面を刻んだもの、無刻のものなどもある。石敢當は中国から日本に伝わった風習で、「敢當(敢当)」とは「向うところ敵無し」という意味がある。伝説に拠れば「石氏」と呼ばれた強い武将に因んだものだとか、「石敢當」という名の力士の名に因んだものだとされているが、或いは石自体の風や雨に影響を受けない強固さ、つまり石自体の霊力を借りたものだとも考えられる。沖縄から九州にかけて多く見られるほか、本州にも若干存在するが、これは沖縄や九州からの移住者が作ったものである。
撮影地:沖縄県那覇市安里、首里ほか
撮影者:武藤一機及び有志
Copyright : pubric domain
いしこりどめのみこと
日本記紀神話における金属器の神。「伊斯許理度売命」は古事記での表記で、日本書紀では同訓で「石凝姥命」と表記される。神名の「石凝」は石の鋳型に金属を流しいれ凝固させる、といった金属の鋳造を表している。天岩屋戸の場面に登場する神であり、岩戸に隠れた天照大御神を誘い出すために三種の神器の一つである「八咫鏡(やたのかがみ)」を作った。また天香久山で採れた金を用いて日矛(立派な矛)を作ったともされている。八咫鏡も日矛も、この場合実際に使うものではなく祭祀用の祭具であり、それ自体に悪霊を退ける力を持つと考えられた。そのため、伊斯許理度売命も金属鋳造の職能を守護するというより、鏡や矛の悪霊を退ける力が神格化された神であろう。鍛冶を司る日本の神は伊斯許理度売命のほかにも天目一箇神や金山毘古神などがいるが、鏡・矛を作る伊斯許理度売命は青銅器時代の神だと考えられ、それらの神よりさらに古い起源を持つと考えられる。
いしころわけのみこと
Isis
古代エジプトの豊饒の大母神。字義は諸説あるがそのままであれば「腰掛け」という意味があり、したがってイシスを表すヒエログリフも玉座をかたどったものである。ヌートの娘で、オシリスの妻であり妹。またホルスやウェプワウェトの母親で、アヌビスの養母とされる。彼女の夫であるアヌビスはエジプト王位の簒奪をもくろんだ弟であるセトにより殺され、14に分割されて投げ捨てられたが、イシスの尽力と並外れた魔術の能力により蘇った。イシスがオシリスと交わりホルスを生んだのはその後である。無事後継ぎが生まれたことを確認したオシリスが冥界に帰ってからは、息子ホルスが王位につけるように助力した。
魔術と知略に長けた神であるとともに、夫に忠誠を尽くし子を慈しむ理想的な女性の姿を司る神でもある。至高神レーからレーの真の名前を聞き出せたのはイシス一人であるとされる。通常トビや牝牛の頭、あるいは牝牛の角をつけ、腕にはホルスを抱いた人間の女性の姿であらわされる。また名前から玉座に座っている女性として描かれることが多く、イシスの膝自体がエジプトの玉座と見なされた。
いしなげんじょ
長崎県江ノ島沖で起こると言われる怪音現象。一説には磯女が起こす音だとも言う。古杣や天狗倒し(深夜の山中で木を切り倒す音がする現象)に類した現象で、漁師達が霧深い夜などに漁をしていると、どこからともなく岩が崩れるような大音響が聞こえてくるという。しかし翌日音のした場所に行っても何も起こった様子はないという。
アイヌにおいて、動物や植物が人間に化けて出たもの、つまり変化の総称。「それが化けた者」の意。「イシネレプ」、「イシンネレップ」とも呼ばれる。
Ishim, Issim, Ischim
奄美群島与論島における妖怪。名前は「岩の下に住む」といった意味だと考えられる。一本足の妖怪で、舟の先端や火の先端にとまるとされる。船の先端にとまっている時などは、知らない振りをして、舟の先端や後方の端などを櫂で叩くと、舟から飛び降りて泳いで逃げていく。しかし、からかうと必ず仕返しに来るという。奄美本島においてはイシャトゥは子供ぐらいの大きさであり、イッシャのように魚の目を抜き取ったりするが、人は騙さないとされる。
Īśāna
仏教における天部(→天)の一尊。名前はサンスクリット名である「イーシャーナ(īśāna=支配者の意)」を音写したもので、「いさなてん」、「いざなてん」とも読む。また他に「伊邪那天(いざなてん)」、「伊賒那天(いしゃなてん)」、「伊遮那天(いしゃなてん)」、「伊邪那(いざな)」、「伊沙天(いしゃてん)」とも音写される。また別名を「嚕捺羅(ろだら)」と言うが、これはサンスクリットの「ルドラ(Rudra=咆哮の意)」の音写である。イーシャーナはインド神話に登場するシヴァの別名であり、またルドラはシヴァの前身とされる神である。従って伊舎那天自体も大自在天(シヴァが仏教に取り込まれた姿)と同体あるいは大自在天の忿怒身とされる。
八方天および十二天の一尊として東北を護る神とされ、胎蔵界曼荼羅でも外金剛部院(最外院)の東北(左上)隅に配置される。その像容は浅青肉色の身色に三目で歯牙一対が上を向いた忿怒相で、左手に血が注がれた劫波杯(こうははい=髑髏杯)、右手に三戟剣を持ち、黄色の牛に乗り、二人の天女が侍るもの、或いは犎牛(ゼビュー牛のことか)に乗り右手に三股叉を持ち左手は腰に当てたものなどが儀軌に伝わるが、胎蔵界曼荼羅に描かれる姿は牛に乗らず筵に坐したものである。また胎蔵界曼荼羅では周囲に「伊舎那天后(いしゃなてんこう)」、「常酔天(じょうすいてん)」、「喜面天(きめんてん)」、「器手天(きしゅてん)」、「器手天后(きしゅてんこう)」、「摩訶迦羅(まかから)=大黒天」、「毘那夜迦(びなやか)=歓喜天」などが眷属として描かれる。
種字は「रु(ru)」、「ई(ī)」、三昧耶形は三股戟、印相は独鈷杵印、真言は「南莫三曼多沒馱南(なうまくさまんだぼだなん)伊舍那耶娑嚩訶(いしゃなやそわか)」(伊舍那天真言・T0908)、「南麼三曼多勃馱喃(なうまくさまんだぼだなん)嚕捺囉也(ろたらや)莎訶(そわか)」(嚕捺囉真言・T0848)、「南莫三漫多駄南伊舍曩曳娑嚩訶(なもさんまんただなんいしゃのうえいそわか)」(T1298)など。
国訳秘密儀軌編纂局 編
「新纂仏像図鑑 天之巻」より
国立国会図書館蔵
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国訳秘密儀軌編纂局 編
「新纂仏像図鑑 天之巻」より
国立国会図書館蔵
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国訳秘密儀軌編纂局 編
「新纂仏像図鑑 天之巻」より
国立国会図書館蔵
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「諸尊図像鈔(写)(しょそんずぞうしょう)」(不明)より
ページ:v09p048
著者不明
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v03p022
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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十二天の一尊として
Bharaṇī
密教の宿曜道において二十八宿及び二十七宿の一つ。インドでは「バラニー(Bharaṇī)="担ぐもの"の意」といい、胃宿、「長息宿(ちょうそくしゅく)」、「満者天(まんしゃてん)」と呼ぶほか、「波羅尼(はらに)」、「婆羅尼(ばらに)」と音写する。また日本では「胃(えきえぼし)」の和名を当てる。胎蔵界曼荼羅では北方(左側)に配され、像容は右手に赤珠の乗った蓮を持ち、左手で蓮の茎を受ける。
種字は「भ(bha)」、「रो(ro)」、真言は「唵婆羅尼莎呵(おんばらにそわか)」、三昧耶形は蓮上星。
国訳秘密儀軌編纂局 編
「新纂仏像図鑑 天之巻」より
国立国会図書館蔵
Copyright: public domain
「七曜星辰別行法」における図像で、胃宿を司る病鬼王である「独指樓(どくしろう)」。
「大正新脩大藏經図像部 第7巻」
京都東寺観地院蔵「護摩爐壇様」より
大蔵出版
©大蔵出版及びSAT大蔵経データベース研究会(Licensed under CC BY-SA 4.0)
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v03p016
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
Copyright : public domain
廾八宿(二十八宿)の一尊(十七)として
Iṣṭavajra
Iṣṭavajriṇī
Ixtab
マヤにおける自殺の守護女神。首に縄を巻きつけてぶら下がった姿で、両目は閉じられ、顔面の腐敗した姿であらわされる。マヤでは、首吊り自殺をした者、戦死した者、出産時に死んだ女性、神官は楽園に直行できると考えられていた。イシュタムはこのような魂を宇宙樹ヤシュチェの木陰の楽園に連れて行く。彼等は現世の悩みを忘れて、あらゆる苦しみや欠乏から自由になり、憩いの時を過ごせるという。
「ドレスデン絵文書(Codex Dresdensis)」より
ザクセン州立兼ドレスデン工科大学図書館(Saxon State and University Library Dresden)蔵
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Ishtar
バビロニア神話における愛欲、大地、戦を司る女神。シュメール神話のイナンナに由来する神で、またカナアン神話のアスタルテの語源になったとされている。愛と豊穣の女神であり、豊穣神タンムズの妹であると同時に妻。アッシリアでは弓と矢筒を構えた姿から、戦争の女神として崇拝された。またギリシア神話のアフロディテに相当することからバビロニアの女性は生涯のうち一度、アフロディテの神殿にこもり見知らぬ男性との性交渉に臨まなければならないとされた。この時男性は女性のひざの間にコインを投げいれて、「私は汝をミリッタ(アフロディテのアッシリア名、イシュタルの異名の一つ)の名において要求する」といわねばならなかったという。イナンナと同じく、俗に「冥界下り」といわれる説話がある(イナンナの項目参照)。「ギルガメシュ叙事詩」では英雄王ギルガメシュを誘惑する官能的な女神として登場している。
Ixchel
マヤにおける洪水と豪雨の女神。「怒れる老婆」と称される。名前は「虹の貴婦人」を意味する。天界の支配者イツァムナあるいはキニチ・アハウの配偶神とされる。洪水や豪雨を引き起こす、恐怖すべき神であると同時に、恵みをもたらし出産を司る神でもあった。その頭には絡み合う蛇が巻き付いており、スカートには十字に組んだ骨が刺繍され、周囲には死と破壊の象徴を描いてあらわされる。また完全武装した女戦士の姿で描かれることもある。彼女は怒りが度を越えると天の水瓶をひっくり返して豪雨をもたらし、また「空の蛇」が洪水を起こすのを助ける。マヤ人はイシュ・チェルに対して常に生贄をささげ、気持ちをなだめようとした。生贄をささげることを怠ればイシュ・チェルは暴風雨を引き起こし、人々を殺し、町を破壊すると考えられていた。イシュチェルは織物の神とも考えられ、これは同じくイツァムナが夫とされるイシュ・チャベル・ヤシュと共通しているため、二神は同一神とも考えられる。
「ドレスデン絵文書(Codex Dresdensis)」より
ザクセン州立兼ドレスデン工科大学図書館(Saxon State and University Library Dresden)蔵
Copyright: public domain
Ix-chebel-yax
Ixtlilton
メキシコ中央部アステカの健康と治癒の神。マクウィルショチトルとショチピリの兄弟であり、3人はそれぞれ健康・快楽・幸福といった側面を象徴していた。イシュトリルトンはダンスとも関係しており、これはおそらく治癒のひとつとしてダンスが行われていたことによると思われる。
Iṣṭavajriṇī
Iskur
ヒッタイトにおいて雨や雷嵐を司るとされる気象の神。「天界の王」と称され、地上の王の戦を助ける存在であった。二人の山の神の上に座っている姿、聖獣である雄牛のひく戦車に乗っている姿で描かれることが多い。バビロニア神話のアダドと同一される。イスクルは棍棒、稲妻、10の聖数で象徴される。
いずな
日本における想像上の動物。「いいずな」とも言う。「えづな」(岩手)、「えじな」(岩手県九戸郡)、「いじな」(青森県三戸)とも呼ばれる。飯綱使いが用いるという動物で、言わば使い魔のような存在。飯綱は主人の命令で方々に飛び回り、見聞きしたことを主人に伝えるという。小さな鼠ほどの姿をしているとも、管狐と同じとも、また、山鼠(やまね=実在するヤマネ科の哺乳類)ともいわれる。基本的に飯綱は飯綱使いの管理下にあるが、単独で生きる飯綱もいて、こういった飯綱は人に憑くこともあるという。
いずものみかげのおおかみ
「播磨国風土記」に見える神。揖保郡の枚方里(ひらかたのさと)にあった神尾山にいたという神。意此川(おしがわ。おそらく現在の林田川)を通る者は出雲御陰大神によって半数は殺されてしまうのだという。そこで(神の座所として)屋形を作り、お神酒を作ってこれを奉納したところ鎮まったという。この話は播磨国風土記中の意此川の段で語られるものだが、同様の話が枚方里の左比岡(さひのおか)の段でも語られおり、ここでは神名を単に「出雲大神(いずものおおかみ)」としている。この段では佐比(鋤ないし刃物)を作って奉納したが受け入れられなかったことと、神が前述のように荒ぶっていた理由が語られている。それによれば、この地には比古神(男神)が先に来たが、比売神(女神)が後になってきた結果、比古神は鎮まることができずこの地を立ち去り、比売神が残されたためなのだとしている。つまり出雲御陰大神は女神か、あるいはこの男女両神を合わせた名と考えられる。
Israel
Israfil
イスラム教における四代天使の一人(他にアズラーイール、ジブリール、ミーカール)。「イスラフェル(Israfel)」、「イスレフェル(Isrephel)」、「サラフィエル(Sarafiel)」などの別称を持つ。最後に審判の日に復活のラッパを吹く復活と歌を司る天使で、四枚の翼を持ち頭は七層の天の第七層に、足は七層の大地の第七層に達するとされる。つまり天地と等しい大きさをもつ。贅沢を極め同性愛に耽る悪徳の街ソドムに一団の天使を率いて現れ、地震で街をくつがえし、焼けた粘土のつぶてを打ち付けソドムを滅ぼしたという。しかし無情な天使という訳ではなく地獄を一日に六度は見下ろし、その惨状をみて「アラーが止めなかったら大地を満たすほどの」涙を流しているという。
Iðunn
北欧神話における不死の女神。詩神ブラギの妻。「イドゥンノル(Idunnor)」、「イドゥナ(Iduna)」とも呼ばれる。古代北欧において崇拝されていた女神ではなかったらしく、神話を伝承した詩人たちによって、比較的新しい時代に付け加えられた存在だと思われる。父母の名前も、所属する神族も、神話において語られてはいない。若さと活力を与える女神であり、巨人族の欲望の対象でもある。フレイヤと似た豊穣神としての性格を数多くもつ為に、豊穣神のグループであるヴァン神族出身の女神と考えられることもある。イズンは不死の林檎の所持者で、神々はこの林檎を味わうことによって永遠の若さを保っているといわれている。不死の林檎についての描写は明確ではなく、イズンがトネリコの箱の中に入れて保管しているというこの林檎が、どのようなものであったかは定かではない。
いせつひこのみこと
「播磨国風土記」や「伊勢国風土記」逸文に見える神で「伊勢」という国号の由来になったとされる神。播磨国風土記では「伊勢都比古命」、伊勢国風土記逸文では「伊勢都彦命」と表記される。「出雲神(いずものかみ)」ないし伊和大神の子神で、伊勢国風土記逸文に拠ればまたの名を「出雲建子命(いずもたけこのみこと)」、「天櫛玉命(あめのくしたまのみこと)」といい、伊賀の安志社(あなしのやしろ)にいる神で石の城(防塞)を築いて、来襲した「阿倍志彦神(あべしひこのかみ=伊賀国阿部郡の神(敢國神社の元の祭神である敢国津神)か)」を追い返したという。ここで「安志=穴石」や「石の城」が出てくるように、神名の「伊勢」は「石(いそ)」の転訛で、石神のことを指していた可能性がある。また別の逸文では神武天皇(→神倭伊波礼毘古命)の命を受けた天日別命に国土を渡すように要求され、最初は拒否するも最終的には平伏し、伊勢国を去り信濃国に住むようになったと書かれている。この時伊勢を去った証拠として「八風を起こし海水を吹き上げ波浪に乗って東方に退却する」と天日別命と約束し、そのように去った。この退却は夜更けに行われたが大風が四方に起こり、大波を打ち上げ、太陽のように光り輝いて陸も海も昼のように明るくなったという。安志社とは式内社の「穴石神社」で、三重県伊賀市柘植町にある現「都美恵神社(つみえじんじゃ)」のことと思われる。本居宣長は最終的に信濃国(現在の長野県)に向かったとある点と物語の類似性から、伊勢都彦命は建御名方神と同神ではないかと論じている。三重県伊勢市辻久留にある「上社(かみのやしろ)」の「櫛玉宮(くしたまのみや)」は伊勢都彦命を「伊勢津彦大神(いせつひこのおおかみ)」として「伊勢津姫大神(いせつひこのおおかみ)」(→伊勢都比売命)とともに祀る。
いせつひめのみこと
「播磨国風土記」に見える女神。伊勢都比古命(→伊勢都彦命)とともに伊和大神の子神とされる。播磨国風土記に拠れば『揖保郡の伊勢野の山には伊勢都比売命、伊勢都比古命がいたが、近くの野に家を建てても(神々が荒ぶり)安らげなかった。そこで衣縫猪手(きぬぬいのいて)、漢人刀良(あやひとのとら)らが山の麓に社を建てて神を敬い祭るようにしたところ、神は山の峰に留まるようになり家は増え里となった。このためこの地を「伊勢野」と名付けた。』と記されている。伊勢野とは現在の兵庫県姫路市林田町の一部を指し、今でも「上伊勢」、「下伊勢」と言った地名が残っている。三重県伊勢市辻久留にある「上社(かみのやしろ)」の「櫛玉宮(くしたまのみや)」は伊勢都比売命を「伊勢津姫大神(いせつひこのおおかみ)」として「伊勢津彦大神(いせつひこのおおかみ)」(→伊勢都彦命)とともに祀る。
いそおんな
九州の海岸に出現するという女の妖怪。下半身ははっきりしないが上半身は長い髪の女の姿で全身は濡れているとされる。絶世の美女である場合が多く、呼び止められた人間が近づくとその長い髪を伸ばしてきてからめとられ、血を吸われて死んでしまうという。鹿児島県の磯女の場合は、一目見ただけで病気になって死んでしまうという。盆の期間と大晦日はとくに磯女が出現しやすい時期だとされる。
Yí-jí
中国において最古の地理書とされる「山海経」に言及される、凶兆とされる獣の一つ。中山の鮮山という山にいる、赤い口先と赤い目、白い尾をもつ膜犬(バクケン=西域に住む犬)のような姿の獣だという。この獣が現れた国は火災に見舞われるとされる。
「山海經(せんがいきょう)」(不明)より
ページ:v02p074
郭璞(伝)著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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いそたけるのかみ
日本書紀に登場する樹木を司る男神。「いたけるのかみ」と読むこともある。また「射楯神(いたてのかみ)」とも呼ばれる。須佐之男命の子。名前の意味は未詳。日本書紀によれば、須佐之男命が高天原を追放された時にともに新羅(しらぎ)に天降ったのが五十猛神であった。須佐之男命は結局新羅に住むことを嫌い出雲に渡ったので、五十猛神が持っていた木の種も新羅には植えられず、大八州(おおやしま=日本国土)に植えられることになった。このため五十猛神は樹木と植林の神とされる。また日本書紀に記された別の神話によれば、須佐之男命が髭や胸毛、尻毛、眉毛を抜いて撒くとそれが色々の樹木となり、これらの樹木を更に日本中に普及したのが五十猛神と大屋津姫命、柧津姫命の三人の須佐之男命の御子神とされる。
いそなで
日本の妖怪の一種、あるいは怪魚。竹原春泉画、桃山人文の「絵本百物語」に見られる。同訓で「磯那で」とも書く。松浦(現在の長崎県松浦市)の沖や西海(現在の東シナ海)に出現する怪魚で、北風が荒く吹く時には必ず現れたという。釣り船ほどの大きさとともに尾ひれに逆さまに生えた鋭い針が特徴で、船が通りかかると船上の人を尾ひれで撫でるように遅い海中に引き込むとされる。絵本百物語には「鱣魚(ふか)の如く」と書かれているが、鱣魚(てんぎょ)は鱶(ふか)の他に川蛇(おそらくウナギのこと)、鯉の仲間など色々な魚のことを示すので判然としない。ただ挿絵だけを見れば(頭部は海中に没し描かれていないが)巨大な鯉のように見える。また多田克己氏はこの磯撫に逆さの針がついていることなどに留意し、「逆鉾(さかほこ)」と呼ばれていた鯱(しゃち)のことではないかと推測している。
Skanda
インドの神である「スカンダ(Skanda)」が仏教の天部(→天)に取り入れられたもの。「私建陀(しけんだ)」、「塞建陀(そくけんだ)」、「揵陀(けんだ)」、「韋駄(いだ)」などと音訳する。また「韋駄将軍(いだしょうぐん)」、「違陀天(いだてん)」、「韋駄天神(いだてんじん)」、「韋将軍(いしょうぐん)」、「陰天(いんてん)」などの名前でも呼ばれる。「韋駄天」という漢字は仏教の伝播過程において、「建」の字を「違」と誤写されたために発生したものと考えられている。
南方の増長天に従属する八将軍の長であり、また四天王ごとの八将軍を合わせた三十二将軍全体の長とされる。僧あるいは寺院(伽藍)の守護神とされる。形像は、身に甲冑を着け、合掌した両腕に宝剣を持つ。釈迦が涅槃の後、捷疾鬼(しょうしつき=夜叉)が仏舎利から歯を盗み去ったとき、この神が追いかけて取り戻したという俗説がある。非常な速さで駆け、魔鬼を排除するとされるところから足の速い人のことを「韋駄天」と言ったりする。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v03p023
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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いちきしまひめのみこと
日本記紀神話における海を司る女神。宗像三女神の一人で、天照大御神に須佐之男命が赤心を証明するために行われた誓約(うけい)によって生まれた神。「いちき」は「斎(いつき=かみをまつる場所)」の転訛と考えられる。古事記では「市寸島比売命」、「狭依毘売命(さよりびめのみこと)」、日本書紀では「市杵島姫(いちきしまひめ)」、「瀛津島姫(おきつしまひめ)」と記される。宗像三女神の名称には日本書紀と古事記の間で混同が見られるが、「古事記」によれば市寸島比売命は胸形(むなかた=宗像)の中津宮(大島)に坐す、とされている。現在の厳島神社は宗像三女神を祭神として祭っているが、元々の社名を「伊都伎島(いつきしま)神社」といい、古代は市寸島比売命一神のみを祀っていたと考えられている。
Ekākṣara-uṣṇīṣacakra
仏教において仏陀の頭頂の功徳を仏尊とした仏頂尊の一尊。サンスクリット名を「エーカークシャラ・ウシュニーシャチャクラ(Ekākṣara-uṣṇīṣacakra)」といい。「エーカークシャラ」は「単音」、「ウシュニーシャ」は「肉髻」、「チャクラ」は「輪」を意味する。「一字金輪(いちじきんりん)」、「一字金輪仏頂王(いちじきんりんぶっちょうおう)」、「大金輪明王(だいきんりんみょうおう)」、「金輪仏頂(きんりんぶっちょう)」、「奇特仏頂(きとくぶっちょう)」、「一字頂輪王(いちじちょうりんのう)」などの名でも呼ばれる。また「翳迦訖沙羅烏瑟尼沙斫訖囉(えいかきしゃらうしつにしゃしゃきら)」と音写する。
種字「भ्रूं(bhrūṃ)=勃嚕唵」の一字のみを真言とし、仏頂尊中、また輪王中において最頂・最高であることをもっての尊名だとされる。一字金輪仏頂は大日如来の仏頂と釈迦如来の仏頂とに分類され、それぞれ俗に「大日仏頂(だいにちぶっちょう)」、「釈迦仏頂(しゃかぶっちょう)」と呼ばれる。大日金輪は金剛宝冠を戴き輪鬘を首飾りとし装身具で身を飾り智拳大印を結び白蓮台に坐す。釈迦日輪は須弥山上の八葉白蓮華に螺髪で結跏趺坐し定印を結ぶ。
印相は智拳印ないし智向前印、種字、真言は前述のように「भ्रूं(bhrūṃ)=勃嚕唵(ぼろん)」。
国訳秘密儀軌編纂局 編
「新纂仏像図鑑 地之巻」より
国立国会図書館蔵
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「諸尊図像鈔(写)(しょそんずぞうしょう)」(不明)より
ページ:v11p031
著者不明
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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いわゆる星曼荼羅、北斗曼荼羅と呼ばれる北斗法に使われる曼荼羅。
第一院中央主尊に一字金輪仏頂と右側に難陀竜王、左側に跋難陀竜王を配す。
第一院の四隅、四辺および一字金輪仏頂のすぐ下の仏尊は九曜で、それぞれ土曜(中央)、水曜ないし「北辰(ほくしん)」(上辺)、日曜(右上)、月曜(左上)、木曜(右辺)、金曜(左辺)、火曜(下辺)、羅睺曜(右下)、計都曜(左下)を配す。
第一院の下部には北斗七星(輔星も合わせれば八星)で、左から貪狼星、巨門星、禄存星、文曲星、廉貞星、武曲星(その上に「輔星(ほしょう)」)、破軍星を配す。
第二院は十二宮で、下辺中央から反時計回りに師子宮、女宮、秤宮、蝎宮、弓宮、摩竭宮、瓶宮、魚宮、羊宮、牛宮、男女宮、蟹宮を配す。
第三院は二十八宿で左編中央より反時計回りに昴宿、畢宿、觜宿、参宿、井宿、鬼宿、柳宿、星宿、張宿、翼宿、軫宿、角宿、亢宿、氐宿、房宿、心宿、尾宿、箕宿、斗宿、牛宿、女宿、虚宿、危宿、室宿、壁宿、奎宿、婁宿、胃宿を配す。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v02p007
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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イチジャマ
沖縄における生霊、あるいは生霊を使った呪法とその呪法を使う家筋のことをも生邪魔と呼ぶ。生邪魔を持つ家系は「生邪魔仏(イチジャマブトキイ)」なるものを持ち、これに祈ることによって相手に生邪魔を憑かせるとされる(或いは憎いと思っただけでも憑かせることが出来るともされる)。生邪魔に憑かれると病気になるが、これを治すにはユタ(巫女)による呪い返しによって生邪魔を送り返す。生邪魔は人だけでなく家畜などにも憑かせられるという。
Itchita
シベリアのヤクート族(シベリア北東部に住む種族)の伝承で、大地の女神。人間から病を遠ざけてくれる大母神の別の姿。草木の霊にかしずかれており、白いブナの木に住んでいる。家畜を守る女神であるイナクシトや子供を世話する。女性の出産を助ける女神アユストなどもイチタの化身である。なお、イチタには地圏の支配者であるドイドゥ・イチタや、土の支配者であるシル・イチタなどが含まれる。
Yī-rú guān-yīn
仏教において変化観音(→観音菩薩)の一種であり、三十三観音の一尊。妙法蓮華経にある一節「雲雷鼓掣電/降雹澍大雨/念彼観音力/応時得消散(=雲が雷電を打ち雹や大雨を降らしたとしても、彼の観音の力を念ずれば、それに応じて消散する)」に対応する仏尊とされる。雲に乗って空中を飛ぶ姿で描かれる。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v02p018
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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三十三観音の一尊として。
沖縄における怪現象の一種。「イチマブイ」とは「生きた霊魂」、つまり生霊のこと。奄美大島では「イキマブリ」と呼ぶ。危篤状態で寝込んでいるはずの人間が外を歩いている様が目撃されることをいい、これは肉体から魂が離れた状態だと解釈される。このとき顔が見えなければそのイチマブイを肉体に戻せるが、笑っていたりするイチマブイはすでに手遅れだとされる。
Yīmù-rén
中国の伝承に登場する奇妙な種族の一つ。古代の地理書「山海経」の海外北経に記されている。燭陰の住む鍾山の東方にあるという「一目国」に住む人々で、額の中央に目が一つだけついた人の姿をしているという。また「山海経」の大荒北経にも「一目」と呼ばれる人々がおり同じ種族のことだと思われる。この人々はやはり一つの目だけが顔の中央にあり、「威」という姓で黍を食べる人々で少昊の子(子孫)だと記されている。
「唐土訓蒙圖彙(もろこしきんもうずい)」(1802)より
ページ:v02p033
平住専庵著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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「山海經(せんがいきょう)」(不明)より
ページ:v03p017
郭璞(伝)著
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一目國在其東 一目中其面而居
「和漢三才圖會(わかんさんさいずえ)」(1890)より
ページ:v02p160
寺島良安著
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「山海經(せんがいきょう)」(不明)より
ページ:v04p036
郭璞(伝)著
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有人一目 當面中生 一曰是威姓 少昊之子 食黍
いちもくれん
日本民俗信仰における台風や暴風雨の神。「一目連大神(いちもくれんだいじん)」とも。一目連とは中部地方において不意に吹く暴風、つむじ風のこと。暴風雨と光(稲妻)を伴って出現し日本中を暴れまわるとされる。地元では大雨と雷がいっしょにやってくると一目連が出かけた事の現われとして、その後風がなくなり海も穏やかになると喜んだが、周りの国からすれば一目連がやってくるということなので迷惑がられたという。
三重県桑名郡多度町の多度大社には、別宮として「一目連神社(いちもくれんじんじゃ)」があり、社伝に従い天目一箇神が祀られている。百井塘雨の「笈埃随筆」に拠れば、この社に棲む一目連とは一目の龍であり、扉のない社から一目連が出ていくと、付近に雨が降り雷電が走るという。
Yī-yè guān-yīn
仏教において変化観音(→観音菩薩)の一種であり三十三観音の一尊。観音菩薩が姿を変えて人々を救済するという「三十三応現身」のうちの「宰官身(さいかんしん)」にあたるもの。水上に浮かんだ蓮華の一片に右膝を立てて座った姿で描かれる。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v02p016
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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三十三観音の一尊として。
Itzam Cab Ain
マヤ神話における、巨大な一匹のワニの名。世界の区切りの時に顕れる、大洪水の象徴であるという。
Itzamna
マヤ神話において世界を照らし出す太陽を神格化した高位の神。名前は「イツァム(イグアナ)」+「ナー(家)」、つまり「イグアナの家」を意味する。イグアナはおそらく世界全体を示し、イツァムナは世界という器そのものと認識されていたことが窺える。至高の神フナブ・クーの息子であるとされ、時にアステカのケツァルコアトルと同一視される。人間に直接干渉しないフナブ・クーよりも広く信仰され、事実上の最高神とされていた。天界及び昼と夜の支配者であり、その光はあまねく世界中を満たし、全ての生物に命を与えるという。また人間にカカオやゴム、トウモロコシなどの栽培を教えた文化英雄神だともされる。名前のとおり巨大な双頭のイグアナないし蛇の姿で表されるほか、歯が抜け落ち頬がこけ、長い鼻を持ち、多くは双頭の蛇などを持った、威厳と優しさを備えた老人の姿でもあらわされた。「アハウリル(ahaulil)=王」という称号を与えられ、玉座に座り下位の神々に君臨する王として描かれる。また、後古典期では最初の神官、「記述の発明者」とされる。書物、治療、医術などを司る。イシュチェル、もしくはイシュ・チャベル・ヤシュを配偶神とする。
いつくみまえのおおかみ
Ekajatārākṣasa
仏教における菩薩の一尊。「一髻」は「いっけ」とも読む。チベット仏教では「レルチクマ」と呼ばれる。サンスクリット名を「エーカジャティー(Ekajatī)」、「エーカジャターラークシャサ(Ekajatārākṣasa)」、「エーカジャター(Ekajatā)」などとし、「翳迦惹吒(えいきゃじゃた)」、「翳迦惹吒羅刹(えいきゃじゃたらせつ)」と音写する。「エーカジャター」は「一つの髻(束ねた髪)」を意味し、「エーカジャティー」はその女性形となる。胎蔵界曼荼羅においては男性形としては「一髻羅刹王菩薩(いっけいらせつおうぼさつ)」、女性形としては「一髻羅刹女(いっけいらせつにょ)」の名で蘇悉地院の北方(左側)の中央から三番目に配される。現図曼荼羅では男性形で青色身の火髪を頂く四臂の忿怒形で右手第一手に剣、第二手に鉞、左手第一手に索、第二手に三鈷を持ち赤蓮華に座した姿で表される。
種字は「ए(e)」、密号を「雷電金剛(らいでんこんごう)」、三昧耶形は剣・鉤。
日本の奄美諸島徳之島に住むという精霊の一種。犬田布岳に住んでいて、村に下りてくるという。キジムナーに似た行動をする。子供のような姿で破れ笠と短い蓑を身につけ、トウモロコシに似た尻尾がついている。片跛の足で跳んで走るとされる。夜外出する時はイッシャが必ず話し掛けてくるので、人々はトウモロコシの茎を一本もって外に出る。イッシャから話し掛けられたら、黙ってトウモロコシを尻につけて振ってやると、仲間と勘違いしてついてくる。こうしてイッシャと仲良くなり、一緒に漁に行くと再現なく魚が捕れるという。しかし、捕れた魚の片目はイッシャが全部食べてしまうので、片目になるといわれている。怠け者でおだてにすぐのるともされる。またイッシャが舟に乗るとてんで舟が進まなくなるので急ぐ時は呪いの歌を歌わなければいけないともされる。
いつせのみこと
いったんもめん
日本の妖怪で、一反(約11m×30cm)程の長さの白い木綿の布のような姿をしている。夜中に道を歩いている人がいるとヒラヒラと飛んできて身体や首に巻きついてくる。鹿児島県高山地方では人を殺す事もあるという。どう見ても布にしか見えないが、刀で切りつけると、刀に血がついたという。
いつとものおのかみ
Itztlacoliuhqui
アステカにおいて石や冷気、罪や苦難を司る神。名前は「黒曜石のナイフ」を意味する。全く静的な状態(無気力、無感覚)にある物質を表し、人間の社会に災いを振りまくものと考えられていた。彼はかつては「曙の王」トラウィスカルパンテクートリと呼ばれていたが、太陽神トナティウに挑み、敗れた為に、この姿へと変化させられた。以来彼は、太陽が昇るまでのわずかな時間だけ輝くことのできる「明けの明星」(金星)として存在することになった。テスカトリポカの異なる姿の一つとされ、トナルポワリ(260日暦)の20あるセンポワリ(暦日)のうち13番目の「アカトル(葦)」をテスカトリポカと共に守護する。しばしば矢が額に刺さった姿であらわされる。
Itztli
いつのおはばりのかみ
日本記紀神話において刀剣を司る神。古事記では他に「天尾羽張神(あめのおはばりのかみ)」と記されている。「日本書紀」に登場する「稜威雄走神(いつおはしりのかみ)」と同一神と考えられる。名前の「イツ」は稜威(勢いの激しいこと)、「オハバリ」は「尾刃張(切っ先が張り出していること)」を意味する。伊邪那岐命が火之迦具土神を斬り殺した時の刀である「十拳剣(とつかのつるぎ)」につけられた神名であり、この時飛び散った血から、石拆神、根拆神、石筒之男神、甕速日神、樋速日神、建御雷之男神などの神が生まれたとされる。
その後の段で、高天原の神々が「葦原中国(あしはらなかつくに)」を視察するために誰を遣わすかを相談している中で、伊都尾羽張神が候補として挙げられており、ここでは刀としてではなく神として扱われていることが分かる。結局視察は子神である建御雷之男神が遣わされることとなった。建御雷之男神が伊都尾羽張神の子神とされるのは前述のように刀(=伊都尾羽張神)で切った時の血から建御雷之男神が生まれたからである。これは古事記の話であり、日本書紀では稜威雄走神の子が甕速日神、甕速日神の子が熯速日神(=樋速日神)、熯速日神の子が武甕槌神(=建御雷之男神)と紹介されており、建御雷之男神は伊都尾羽張神から見て曾孫にあたる。
いづのめのかみ
Itzpapálotl
Yībì-rén
中国の古代の地理書「山海経」の海外西経に記されている奇妙な部族の一つ。三身人の住む「三身国」より北側にある、「一臂国」に住む人々のことで、腕と目、それに鼻孔が一つずつしかないのだという。
「山海經(せんがいきょう)」(不明)より
ページ:v03p011
郭璞(伝)著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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一臂國在其北 一臂一目一鼻孔
「唐土訓蒙圖彙(もろこしきんもうずい)」(1802)より
ページ:v02p034
平住専庵著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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「和漢三才圖會(わかんさんさいずえ)」(1890)より
ページ:v02p159
寺島良安著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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Aṣṭottara-śata-bhuja Vajradhara
いつまで
日本における怪鳥の一種。飢饉や戦争などで、多くの屍が野ざらしにされ、埋葬されないままになっていると現われ、上空を飛び回りながら、いつまで放っておくのだと言わんばかりに「いつまで、いつまで」と鳴くという。野ざらしにされた死体の持ち主達の恨みが集まって出来た妖怪だとされる。「太平記」にある「広有射怪鳥事」の話を鳥山石燕が「今昔画図百鬼」で脚色し命名したものであり(太平記には"怪鳥"としかない)、「今昔画図百鬼」では蛇のような尾の生えた鳥として描かれている。
Hide
チリの信仰や民間伝承において知られている奇妙な怪物。水面に浮かんでいて、大きな牛革を広げたような姿をしているが、周縁部全体に巨大な目玉が並んでいて、こちらを一斉に睨みつけるのだという。頭に当たる部分にもそれとは他の4つの目がついているとされる。人間や牛を見つけると丸ごと飲み込み殺してしまう危険な生物だという。
Itherther
アフリカ北部のカビュル人の神話に登場する原初の雄牛。地下世界トゥラムからともに生まれた牝牛タムアツとの間に雄牛アキミを産んだ。アキミに追放されたアテルテルは山をさまようことになったが、妻のタムアツのことを忘れられなかった。タムアツを思い出すたびイテルテルは精液を排出したが、その精液が鉢状になった石に放たれた時、太陽がこれを利用してガゼルをはじめとする動物を作ったという。従って人間とライオン以外の野生動物はイテルテルを祖とするとされている(ライオンは人食い人間が変化したものとされるので除外される。人間はその前から存在していた)。
Ithuriel
カバラなどで言及される天使の一人。名前は「神の発見」を意味する。10ある聖なるセフィラの10番目を担う天使であるセフリロンに従う三名のサリムの一人。ソリアのイサク・ハ=コヘン(Isaac ha-Cohen of Soria)によれば「イトゥリエル」の名は「偉大なる黄金の冠」を意味するという。マグレガー・メイザース(Samuel Liddell MacGregor Mathers)の「ソロモンの大きな鍵(The Key of Solomon The King)」では「マディミエル(Madimiel)」、「バルツァキア(Bartzachiah)」、「エスキエル(Eschiel)」とともに火星の第1のペンタクルにヘブライ文字で記される。
Wēi-dé guān-yīn
仏教において変化観音(→観音菩薩)の一種であり、三十三観音の一尊。観音菩薩が姿を変えて人々を救済するという「三十三応現身」のうちの「天大将軍身(てんだいしょうぐんしん)」にあたるとされる。左手に蓮華を持ち右手は地に付け岩上に坐し水面を見る姿で描かれる。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v02p016
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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三十三観音の一尊として。
Idrus
いなだのみやぬしすがのやつみみのかみ
いなばのやがみひめ
いなひのみこと
日本記紀神話において鵜葺草葺不合命と玉依毘売命の間に生まれた第二子で、神倭伊波礼毘古命の兄の一人。「稲氷命」は古事記の表記で日本書紀では同訓で「稲飯命」、或いは「彦稲氷命(ひこいなひのみこと)」と記されている。「稲(いな)」は稲穂、「氷(ひ)」は霊(ひ)のことで霊威や霊力を示すので穀霊神の一柱といえる。
神武天皇の東征の折、兄弟は神武天皇に同行したが先に長男五瀬命を矢傷を元で失い、また紀伊を航海していた時には暴風雨で舟が進まなくなった。稲氷命は「何故父(鵜葺草葺不合命)は天の神で、母(玉依毘売命)は海の神であるのに、子である我々が陸でも海でも苦しめられるのか」と嘆いて、剣を抜いて海に飛び込んだとされる。この後稲氷命は鋤持神(さいもちのかみ=佐比持神)になったとされる。
Inaras
いなりがみ
日本民俗信仰における稲作の神。「稲荷(いなり)」、「お稲荷さん」、「稲荷大明神(いなりだいみょうじん)」、「翁神(おきながみ)」など、多くの名称で呼ばれる。元々は山城国一帯に住んでいた渡来系の豪族、秦氏の氏神で、和銅四年(711年)に稲荷山三ヶ峰に稲荷神が鎮座した、とある(伏見稲荷大社社伝より)。秦氏の勢力拡大と共に稲荷神の信仰圏も拡大し、その過程で古くからの穀霊神であった宇迦之御魂神と同一視されるようになったと思われる。現在では稲荷社の祭神は一般的に宇迦之御魂神とされる。豊受大神や保食神や大宜都比売を祭神とする場合もあるが、いずれにしてもこれらの神は宇迦之御魂神と同一視される。
「いなり」とは「稲生り」を意味し、百穀の首座にある稲を守護し、また全ての穀物を守護する。近世以降は家業の守り神として町内や邸内に祀るようになった。稲荷の使いがキツネとされる根拠には幾つか説があり、キツネを田の神と考える俗信から野狐信仰と結びついたとする説、宇迦之御魂神の別名「御饌津神(みけつがみ)」を「三狐神」として(狐はケツとも読む)狐が使いとされるようになった、などの説がある。同じく狐を使いとする荼枳尼天と混同・同一視される。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v03p006
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
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三十番神(禁闕守護の三十番神)の一尊(廾二日)として
Inanna
シュメール神話における最も重要な女神で、愛や豊穣、戦いを司る。束ねた葦に象徴され、明るい太陽の光線が体から四方八方に発散しているように描かれることが多い。バビロニア神話ではイシュタルに相当する。父親はシンとされる。
夫であるドゥムジを姉のエレシュキガルに奪われたイナンナはドゥムジを助けるため、エレシュキガルが支配する地下の冥界へと行く決心をした。門で何故来たのかと問われたイナンナは、「姉のエレシュキガルのために来た」と答える。またそのあとでグラガナ(天の雄牛)の葬式を見たいのだとも述べる。冥界の七重の門を抜けるごとに、イナンナは着ているものを一つずつ脱いでいった。これはすなわち彼女の地上での属性を徐々に捨てることを意味し、このようにして、神官としての役割、性的な力、女王としての力などをイナンナは次々と失っていく。最後にイナンナは自分の生命を失い、殺されてしまう。こうしてイナンナは完全に冥界の存在となる。
イナンナの侍女であったニンシュブールは、こんな女王の運命を悲しみ神々に助けを求めたが、大気神エンリルも月神ナンナも関わろうとしなかった。しかしエアだけがイナンナのために一肌脱いでくれることになった。エアは自分の指の爪の垢から二人の人間を創った。この二人は性が無かったので不毛の国にも入っていくことが出来た。エレシュキガルは絶えず拒絶にあっているせいで苦しみから解放される時が無かったが、この二人によって慰められた。その見返りとしてイナンナは生き返り、再び地上に生まれることが出来た。しかし冥界を去る際にイナンナは自分の代わりとなる者を探し出すという条件に同意した。
イナンナが生者の国に帰ってみると、ニンシュブールは冥界の門の前でイナンナの帰りを待っていたし、彼女の二人の息子は彼女のために喪に服していたというのに、夫であるドゥムジは妻の死を悼むどころか、すっかり楽しい気分になっているのだった。イナンナは怒り、即刻ドゥムジを自分の代わりに冥界に遣わすと決めた。ドゥムジは身を隠そうとしたが、冥界からイナンナに付き添ってきた悪霊たちに引きずり出され、冥界へと連れて行かれた。
Inuus
いぬがみ
日本の中国、四国、九州地方でよく見られる、人にとり憑いて害をなすという犬の霊。「イヌガメ」、「インガメ」、「犬外道(いぬげどう)」とも呼ばれる。ネズミやイタチのような小動物の姿をしているが多く目に見えないとされる。人間によって意図的に作られる(降霊される)ことが多く、その人間の意のままに動き、命令によって人に憑く。犬神の作り方として、餓えた犬を首だけ出して土中に埋め、前に餌を置き食べようと首を延ばしたところを刎ねた後、その霊あるいは首そのものを祀る、多数の獰猛な犬を戦わせ、残った一頭に魚をやり、口に咥えたところで首を刎ねその魚を食べる、などの方法が伝わっている。これらは中国の虫を使った呪術、いわゆる「蠱術」の影響が見て取れる。憑かれた人間は意味不明の言葉を口走ったり、四つん這いで歩いたりするという。犬神につかれた家筋は「犬神筋」といい、犬神筋は女系を伝わるので縁組を嫌うが、その家系の者が犬神を祀りさえすればその家は富み栄えるという。
いぬがみぎょうぶだぬき
日本の愛媛県に伝わる大妖怪の化け狸。松山に棲む化け狸の総大将であり、八百八匹の眷族を従えることから「八百八狸(はっぴゃくやだぬき)」とも呼ばれる。眷属とともに松山城を乗っ取ろうとしたが失敗し洞窟に封じ込められた。この洞窟は今も残っており、封じ込まれた狸たちが悪さをしないように神社(山口霊神社)が建てられ祀られている。
Inugpasigssuk
カナダに住むイヌイットの伝説に登場する心優しき巨人。巨体ゆえたかっているシラミでさえレミング程の大きさだったという。イヌグパスグスークは入り江に棲んでいて魚やクジラ、アザラシなどを食べて暮らしていた。人間にとても友好的で暇なときであればいつでも人間の漁の手伝いをしてくれたという。自分が海に足を踏み入れたことで起こった津波で村が飲み込まれそうになった時は、村ごと手で救い上げて別の場所に移して村人達を避難させたこともあった。ある時イヌグパスグスークは人間の女に一目ぼれし、その夫に頼み込んで自分の妻と女を交換してもらった。だが性交にいたって彼の大きすぎる男根はその女の体を真っ二つに引き割いてしまった。イヌグパスグスークの妻をもらった人間の男も巨大な膣に体ごと吸い込まれてしまい、あとになって骨だけ出てきた。自分の我儘によって人間の夫婦を揃って殺してしまったことにイヌグパスグスークはひどく後悔し、死んだ夫婦の息子を引き取り自分達の息子として育てた。成長した息子はイヌグパスグスークに頼み込んで故郷の村に帰ったが、巨人夫婦と暮らしていた息子の体はいつの間にか巨大化していて誰にも人間と気付いてもらえなかった。彼はイヌグパスグスークの元に帰って巨人として暮らしたとされる。
いぬひめ
いのこ
日本の民俗信仰に見える田の神。「猪の子」と書くこともある。イノシシが一度に十二匹の子供を産むとされるところから、多産の神として信仰されるようになり、後に農業と結びついて豊穣の神とされるようになったと考えられている。陰暦の亥の月、亥の日、亥の刻に新穀でついた餅を食べて亥の子を祝う行事があり、これは宮廷行事として平安初期から行われてきた。これは収穫の終わる時期であり、民間では収穫祭の日とされた。亥の子祭りを春に行う地域もあり、これはイノシシが春に山から下りてきて田んぼの近くに住居を移すことに由来すると考えられている。
Ihy
Ipiup Inua
北アメリカ大陸の北極圏やカナダの島嶼部に住むイヌイットのイグルリック族の伝承にある人食いの精霊。部族の人々が、突然いなくなり始めた。そんなある日三人の姉妹が一緒に遊んでいた。一人がセイウチの骨で作った小鳥を見つけ、他にもないか探しているうちに、突然、一軒の家の中にいることに気付いた。入り口には女の精霊がいた。長女は、自分達が人食い精霊の家にいることを悟って「私が抱えている柔らかい動物の肉を食べる前に、ちょっと後ろを向いて、入り口の土を食べていてください」といって、その隙に地面に穴を掘り、逃げ出し、家に帰り母親に顛末を告げた。男たちはいなかったので、女だけで復讐に出かけた。姉妹の真似をすると家の中にいた。女たちは「鯨捕りは捕まえた鯨を殺せない。だから、アンタの鍵爪を切りに来たよ」といい、精霊の手足を縛った。女たちが精霊を殺そうとしたとき、精霊は「私の内臓はビーズでできている」と言った。殺して腹を裂くと、その通りだったので、女たちはそのビーズで身体を飾った。しかし一晩立つとビーズは内蔵に戻っていた。
Ipiria
オーストラリアのアボリジニ、イングラ族におけるヤモリの精霊で雨をもたらす。髪の毛とヒゲのある巨大なヤモリで、身体は虹色に輝いているという。ずっと沼の底に眠っているが、一年に一回起きて草と水で腹を満たしそれを一気に空に吹き上げ雨雲を作る。イピリアの住む沼は聖域であり、人間が入り込んだりすると雨期が訪れなくなるとされた。
いぶきどぬしのかみ
日本神道において、祓いを主宰する四柱「祓戸大神(はらえどのおおかみ)」の一柱であり、「延喜式」の大祓詞に言及される神。「伊吹戸主命(いぶきどぬしのみこと)」、「伊吹戸主大神(いぶきどぬしのおおかみ)」、「気吹主命(いぶきぬしのみこと)」、「気吹土主神(いぶきどぬしのかみ)」などの名でも呼ばれる。世の罪穢、凶事を「気吹」、つまり風によって霧散させ、これを除く神であるとされる。本居宣長はこの神と大直毘神を同神と説いている。滋賀県大津市の「佐久奈度神社(さくなどじんじゃ)」、東京都港区の「日比谷神社(ひびやじんじゃ)」、宮崎県西都市の「速川神社(はやかわじんじゃ)」などに祓戸大神の一柱として祀られる。
Ihu-maataotao
Ibraoth
Iblis
イスラム教における悪魔王で堕天使。「エブリス(Eblis)」、「ハリス(Haris)」とも呼ばれる。キリスト教のルシファーないし(個人名としての)サタンにあたる。「アル・シャイターン」(かの唯一なる悪魔)とも呼ばれる。名はギリシア語のディアボロス(悪魔)に由来するとも、アラビア語のウブリサ(何も期待しない)であるとも言われている。コーラン(イスラム教の聖典)によると、神がアダムを創造し、居並ぶ天使たちに、「ひざまずいてこれを拝め」といったとき、ただ一人イブリースだけがそれを拒んだ。彼はこのために天国を追われ、悪魔の大王となった。イブリースには「スト(Sut)」、「アワル(Awar)」、「ダシム(Dasim)」、「ティル(Tir)」、「ザラムブル」という名の五人の息子がおり、それぞれ「虚偽」、「卑猥、好色」、「争い、不和」、「破滅的災害」、「商いの不正」を司るとされる。
Ifrit
アラビアの精霊ジンの一種。五階級に分類されるジンのうち、上から二番目の階級に属する精霊の総称。また、階級に関わらず、悪賢いジンのことをイフリートと称する時もある。
アイヌに伝わる妖怪。語義は「イペ(食べ物)」+「カリ(ねだる)」+「オヤシ(お化け)」。「マワオヤシ(餓えたお化けの意)」とも呼ばれる。山や野で弁当などを食べていると、背後から手だけ出てきて食べ物をねだる。あげたら際限なくねだってくるので、焼けた炭や砥石などを火にくべたものを手に置くとよいとされる。そうすると恨み言を言いながら逃げていく。
Ipos
ユダヤの魔神でソロモン王に封印された72柱の魔神の一人(→"ソロモンの霊")。「イペス(Ipes)」、「アイペロス(Ayperos)」、「アイペオス(Aipeos)」、「アイポロス(Ayporos)」、「アイポロル(Ayporor)」、「アイペウス(Aypeus)」などの別名を持つ。「愚者の貴公子」と称される。ウサギの牙が生えたライオンの頭にアヒルの足を持つ天使の姿、あるいは頭と足がアヒルで胴体がライオン、尾がウサギの天使の姿などであらわれる。未来を予見する能力を持つためこれを期待され召喚されるが、好戦的な性格で全てを争いで片付けようとするやっかいな性格とされる。
Ypotamis
中世ヨーロッパの旅行記に登場する想像上の動物の一つ。水陸両生の動物で、半分が馬で半分が人間の姿をしているという。人間を常食するという危険な生物。カバの姿がひどく歪曲され記録されたものと考えられている。
Ymai
Imap Umassoursa
グリーンランドのイヌイットにおける巨大な海の怪物。平坦な島と間違えられるほどに大きく、漁民達にとても恐れられていた。水深が深い筈の海域なのに水深が浅かった時、イマップ・ウマッソウルサの体の上に船が乗り上げてしまった可能性が疑われる。イマップ・ウマッソウルサが水面に姿をあらわせば船は転覆して船員達は氷海に投げ出され誰一人助からない。
Imana
ルワンダ人が信仰する至高神。名前は「全能」を表す。「ハテゲキマナ(Hategekimana=唯一の支配者)」、「ハシャキマナ(Hashakimana=計画者)」、「ハビャリマナ(Habyarimana=子供を与える唯一の物)」、「ンダギジマナ(Ndagijimana=所有物の保護者)」、「ビギリマナ(Bigirimana=万物の所有者)」などと称される。ルワンダ人の世界観では、天空は強大な岩でありその向こうにイジュル(Ijuru)と呼ばれる天空世界がある。また地下にはイクジム(Ikuzimu)と呼ばれる地下世界が広がっていると考えられている。これに人間の住む地上世界を合わせた三層世界は、時が経つにつれ崩壊していくとされるが、これを食い止めているのが至高神イマナである。またイマナはそれまでは不死だった人間に死を間接的に与えたものとして伝承に語られる。本来は「死」は生き物のような存在だったが、イマナは「死」を嫌い、追い立てた。イマナは人間が「死」の被害に合わないように、人間たちに家の中に閉じこもっているように命じたが、ある老女がバナナを取ろうと外に出たところ「死」に出くわしてしまった。「死」は老女に助けを求め、老女はそれに応じて「死」をスカートの下にかくまった。イマナは怒り、「死」が常に人間とともにあるように決めた。
いむかしきのみこと
Imset, Imseti, Imsety
Imra
アフガニスタンにおける至高神にして創造神。本来は天空の神であり、雲と霧の中に住んでいるとされる。四本角の巨人から生まれたとされる。全ての神々はイムラが黄金の山羊の皮袋に息を吹き込むことによって作られたとされるが、一方別の神話ではイムラの至高神としての地位は、以前からの至高神であったムンジェン・マリクから奪い取ったものであるとされる時もある。しかし、いずれにしても宇宙、そして太陽や月を創造し、天に置いたのはイムラだとされている。イムラの聖獣は羊であるため、生贄には羊が捧げられることが多い。またイムラは文化英雄的な側面も持っており、家畜や犬、小麦や車輪・鉄の利用法を人間に教えたとされる。しかし洪水を司るのもまたイムラであるとされる。
アイヌ民族において、オオヨモギを顕現体とする男性のカムイ。名は「目覚めたカムイ」の意。アイヌではオオヨモギは魔を祓う力があるとされた。
Iyatiku
ネイティブアメリカンの一部族でプエブロ族に属し、ニューメキシコ州に住むケレス族に伝わるコーン・スピリット(穀霊)の女神。人間はイヤティクが支配する地下世界「シパプ(Shipap)」から発生し死ぬとまたシパプに還っていくとされる。
Ila-ilai langit
ボルネオ島ダヤク族の創世神話に登場する巨大魚。世界の時間が動き出す以前、万物は巨大な蛇の口の中に閉じ込められていた。世界が創造されて時間が始まると、地が盛り上がって黄金の山となり、そこに天界を治める至福神が住むようになった。一方で宝石の山が誕生し、下界を治める神はここに住み始めた。やがて二つの山が幾度となく衝突し、その度に宇宙の断片が少しずつ作られていった。この期間は創世の第一期と称されるが雲や空、山、崖、太陽、月などはこうして創り出された。その後、「天の鷹」とイラ=イライ ランギトが生み出され、続いて目が宝石で出来ているディディス・マヘンデラ、黄金の唾液を持つロワング・リウォという二つの神話的な存在が誕生した。そして最後に天界神マハタラの黄金の首飾りが現われた。
Irraq
アラスカのイヌイットの伝承にある人の子供が怪物化する現象。あるとき口が血まみれになった赤ん坊が発見されたが、両親の姿が見つからず、大量の血痕だけが残されていた。これがイラックである。祭礼のときにアクタッカ(アイスクリームの一種)を子供に食べさせないとその子供はイラックになってしまうとされる。これは生まれたばかりの赤ん坊も例外ではなく、少量でもなめさせなければならない。これを怠ると悲惨な結果が待っている。イラックになった赤ん坊は魔除けのお守りをつけさせられ、山のおく深くに追いやられる。
Ilamatecuhtli
メソアメリカ中央部における古代の女神。大地、天空、トウモロコシ(メイズ)を司る。年老いて乾燥したトウモロコシの穂の女神でもあったイラマテクートリは、アステカの365日暦の暦月の最後、18番目の月の「ティティトル(「縮んだ、しおれた、しわのある」の意)」という祭儀で祀られた。また昼の神々「トナルテウクティン」の最後の13番目を担う。
Irik
ボルネオ島ダヤク族の支族である、イバン族の創世神話に登場する霊。時が始まった頃、イリクはもう一人の精霊であるアラとともに、鳥となって果てしない大洋の上を漂っていた。二羽の鳥は二つの巨大な卵を海から拾い上げた。その一つからアラは空を作り、イリクは大地を作った。ところが空に対して大地が余りにも大きくなりすぎた為、二人の精霊はそれを正しい大きさになるまでぎゅっと押し縮めなければならなかった。この作業によって山や谷、川や池などが出来上がった。やがて植物も現われ、二人は人間を作ることに決めた。最初はこれを樹液から作ろうとしたが上手くいかず、土を用いることにした。こうして最初の人間達をこしらえると、二人は鳥の歌をさえずって、彼らに命を授けた。
Illapa, Ilyap'a, Yllapa
インカにおける天候神。雷や稲妻、雨を司り、聖域コリカンチャにある神殿のひとつに祀られていた。ティアワナコの雷神トゥヌーパ・ヴィラコチャにその起源があると考えられている。通常、戦闘用の棍棒と投石器を手にした姿で表される。イリャパはマユ(天の川)から引き出した水を壷に溜めており、雨を降らしたいと思った時は、投石器で壷を割る。ヒューと鳴る風の音はこのときの投石のうなりであり、バリバリという雷のおとはこのときの壷を砕く音であるという。コリカンチャの神殿には穀物に豊穣をもたらす雨を祈願して祈祷や奉納品が捧げられた。イリャパが激しく動くとその光り輝く装身具が稲妻として光るという。
Irin, Irrin
Yryn-ai-tojon
シベリアのヤクート族における至高神。名前は「白い創造主」を意味する。イリン・アイ・トヨンが原初の海を歩いていたとき、袋が浮かんでいるのを見つけた。袋は海の底の地面の悪霊だった。イリン・アイ・トヨンが悪霊に海底の土を持ってきてくれるように頼むと、悪霊は袋から飛び出して海底から土を一塊もってきた。イリン・アイ・トヨンはそれを祝福し海の上に置き、その上に座った。悪霊はイリン・アイ・トヨンを溺れさせようと地面を引き伸ばして薄くしたが、大地は引き伸ばすほどに大きく強固になった。こうして現在の大陸が生まれた。
パラオ神話において、女神ツランが男性神の力を借りずに一人で生んだとされる神の一人。
Ilmatar
フィンランドの叙事詩「カレワラ」に登場する、神とも精霊ともつかぬ女性。
Illuyankas
いわいぬしのかみ
いわさくのかみ
いわすひめのかみ
いわづちびこのかみ
いわつつのおのかみ
いわつつのめのみこと
Yán-hù guān-yīn
仏教において変化観音(→観音菩薩)の一種であり、三十三観音の一尊。妙法蓮華経の「蚖蛇及蝮蠍(蝎)(がんじゃぎゅうふくかつ)」を含む一節「蚖蛇及蝮蠍/気毒煙火燃/念彼観音力/尋声自迴去(=毒蛇やサソリの毒が煙火のように燃えて迫ってきたとしても、彼の観音の力を念ずれば、声に次いで自ら消散する)」に対応する仏尊とされる。岩窟の中で坐し水面を見る姿で描かれるが、これは毒蛇が洞窟に潜むことが多い(と考えられた)ことから。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v02p017
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
Copyright : public domain
三十三観音の一尊として。
いわながひめ
いわのおおかみ
「播磨国風土記」に見える国造りの神。同書に拠れば、播磨(現在の兵庫県)を「国占め(その一帯を支配する)」した神とされる。同書において単に「大神(おおかみ)」と記されるのはすなわち伊和大神のことであり、伊和大神が重要な神であったことがわかる。また同書において国占めをした神として伊和大神のほかに「葦原志許乎命(あしはらのしこおのみこと)=大国主神」の名が記されており、このため両神は同神と見なされている。これは兵庫県宍粟市にある現「伊和神社(いわじんじゃ)」が、「延喜式」においては「伊和坐大名持御魂(いわにいますおおなもちのみたま)神社」と記されていることからも確認できる。元々土着の神であったものが大国主神の神格に吸収されたものと考えられる。
渡来神(日本書紀や古事記では渡来人で新羅王子であったとされている)であった天日槍命と土地の領有権を争ったとされる。妻(妹)として「阿和加比売命(あわかひめのみこと)」、「奥津島比売命(おきつしまひめのみこと)→多紀理毘売命」、「許乃波奈佐久夜比売命(このはなさくやひめのみこと)→木花之佐久夜毘売」、「佐用都比売命(さよつひめのみこと)」、「弩都比売(のつひめ)」がおり、また子神も十柱を数え(下記参照)、多妻多子であることも大国主神と共通する。
Incubus
古代ローマにおける男の悪魔の精。もともとは「インクブス」と発音する。名前はラテン語の「incubo(上に横たわるの意)」を元とする。夜になると眠っている女性の胸の上に乗って悪夢を見せる。時には眠っている女性と交わったりする。円錐形の帽子をかぶっているが、ふざけすぎてこれを落とすことがあり、この帽子を手に入れたものは、隠された財宝のありかを発見できるという。中世以降になると眠っている女性を犯す男性の悪魔だとされるようになった。女性の姿をしたサキュバス(サクブス)は、中世になってからインクブス(インキュバス)の女性版と考えられた。英語圏では悪夢を意味する言葉としてナイトメアとともに利用される。
Incubus
沖縄本島の国頭地方における妖怪。犬の化け物のこと。ある時、漁から帰ってきた人たちが分かれ道に来たところで犬が現れ、何度も追い払っても魚籠に喰らいついてくるので竿でめったうちにしたところ、その犬はたちまち雲のように大きく広がった。その後、漁に行った人は病気になってしまったという。
Ingoi
インドネシアのボルネオ島における邪神。多くの神々が力を合わせて人間を作った。これがよく出来ていたので、神々は天界から不滅の魂を持ってきて出来た人間に入れようと考えた。ところが、神々が天上から不滅の魂を持って戻ってくると、インゴイがすでに自分の息を人間に吹き込んで生きて動くようにしてしまった。このため人間は不滅の魂を手に入れ損ねた。
その後インゴイは他の神々の怒りを買い殺され身体をばらばらに切り刻まれたが、それらインゴイの破片は全て人間にとって有害な動物に変わったという。
Indich
ケルト神話においてフォモール(巨人)族の王で、邪眼バロールやブレシュと共に、トゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)と戦った魔神。子供にオクトリアラッハがいる。母はフォモール族の産みの親で名前に「海底」と言う意味をもつドムニュであり、そのため彼等は「海の巨人」と呼ばれることもある。フォモールの王として神話に登場するが、戦場で活躍することはなくブレシュやバロールと作戦会議をするシーンに出てくる。戦いの終焉で神々の戦士オグマに殺される。
Indra
Indra Mahā-senāpati
仏教において夜叉の頭領の一人であり、薬師如来の眷属である十二神将の一人としての因陀羅(→帝釈天)。サンスクリット名を「インドラ・マハーセーナーパティ(Indra Mahā-senāpati)」という。地蔵菩薩を本地とし十二支のうち午ないし巳の神とされる。
国訳秘密儀軌編纂局 編
「新纂仏像図鑑 天之巻」より
国立国会図書館蔵
Copyright: public domain
赤色の身色で天衣と甲冑を身に着け忿怒形。頭上に馬首を戴き右手に独鈷杵を持ち左手は屈して胸の前に置く。
「増補諸宗 佛像図彙(ぞうほしょしゅう ぶつぞうずい)」(1900)より
ページ:v04p002
土佐秀信著
国立国会図書館(National Diet Library)蔵
Copyright : public domain
藥師十二神將(→十二神将)の一尊(巳)として
Indrāṇī
Inti
インカ人の祖先として敬われる太陽神であり、インカ帝国の正統性を示す国家神。性格は寛大であり、常に人間達を見守るやさしい存在であるという(ただし日食はインティの怒りとみなされた)。農耕、衣服、家屋を知らず、父なる太陽を崇めることさえ知らなかった人間達を憂い、息子であるマンコ・カパックと娘ママ・オクリョを地上に遣わしてインカ帝国の基礎を築き上げさせたといわれる。つまりインカ帝国は、「太陽の子」によって興された「太陽の国」であるという神話によって自身の正当性を示していた。
創造神ヴィラコチャに匹敵するほど重要視され、インカ帝国の勢力・領土が限界値に達した15世紀後半までには、インティは天候神イリャパやその他の神々とともにヴィラコチャの使者とみなされるようになった。通常、人間の顔に似せて鋳造された───目を大きく見開き、歯を出してにやっと笑っているような───金箔の仮面で表された。その顔の周りを金箔の光線が囲んでいるが、それらの光線は鋸歯状で、先端にミニチュアの人間の顔ないし像がついていた。
Indra
ヒンドゥー教聖典「リグ・ヴェーダ」賛歌の全体の4分の1を占め、ヴェーダ神話の主役ともいえる雷霆、戦争を司る神。妻はシャチー、子はジャヤンタである。戦車で空中を疾駆、猛威をふるう軍神。全身茶褐色(もしくは赤色、金色)で「太陽そのもの」とされるほど巨大な体を持ち、名馬ハリのひく戦車で天空を駆けめぐる。彼は神酒ソーマによって勇気をやしない、力の象徴であるバジュラ(金剛杵)で敵を粉砕する。そのためソーマはインドラの発揮する特別な力の源だと考えられた。しかし、信者に対しては非常な恩恵を与える反面、神酒ソーマを痛飲し、ウシャスの車を破壊したり、スーリヤの車輪を奪ったりして、神界の平和を破る厄介ものでもあった。彼は無数の人間や悪鬼を征服し、太陽にうちかち、蛇形の悪魔ヴリトラを退治して、それがせき止めていた水を放出し(そのため「ヴリトラハン(Vritrahan=ヴリトラの殺戮者の意)」という異名を持っている)、捕らえられていた牛の群れを解放した(夜明けの象徴とされる)。また後世に至っては戦争において勇敢な死を遂げた戦士たちにアプサラスを遣わし、天界へ賓客とし迎え、その行為をたたえるという。この逸話は北欧神話におけるオーディンとヴァルキューリに類似しているため、よく比較される。ある伝承ではインドラは天と地から生まれたが、その二つを引き離し、それまでの宇宙秩序を打ち破って新しい秩序をもたらした神とされる。他にパーカシャーサナ(Pākaśāsana=パーカ(ダイティヤの一人)を調伏する者)という異称もある。
仏教に入って仏法を守護する帝釈天に帰化する。
Indra
Indr
Yīng-bā
中国の少数民族、傣(タイ)族に伝わる創造神話の最高神。まだ天地も存在しない原初の時代に、気体、霧、大風から誕生し、天地を分離し、自分の身体の垢から作った天神に、泥から人類を作らせたという。
Inpw
Imp, Impe, Emp, Himpe, Hympe, Ymp, Ympe
イギリスの森に棲む妖精の一種。名前は若草を意味する古英語「インペ(impe)」に由来する。インペットともいう。幼児ぐらいの大きさがあり、全身は黒く、目は赤く、尖った耳と先端が鉤型になった長い尻尾、小さな角と小さなコウモリのような翼がある。「インプ」には挿し木の意味があり、悪魔から別れた小悪魔だと言われる。性格は意地悪で、人助けをする場合でも裏では何か良からぬ事を企んでいる。ある物語ではトム・ティット・トットという名のインプが、糸を紡ぐ仕事を引き受ける代わりに若い娘に結婚を迫って困らせている。リンダム(現在のリンカーン)の大聖堂の柱に彫刻されたインプは、天使によって石に変えられたものだという伝説が残っている。
Yn Foldyr Gastey
Imbunche, Invunche
チリの伝説、伝承に登場する二足歩行の怪物。丸々と膨れてまるで毛皮で出来た風船のような体をしているので「革の王者」と呼ばれることもある。入り口が湖の底にしかない洞窟の中に住んでいる。インブンチェが洞窟から出ることは無いが、手下であるトレルケフエクヴェを使って若い娘を湖岸からさらい自分の所まで持ってこさせ、その血をすするという。洞窟から外に出ないインブンチェを退治することが難しいが、体に穴を空けることが出切れば「水ぶくれを潰すように」簡単に殺すことができる。
Inhert
Imberombera, Imberomba, Imberomba
日本の奄美大島瀬戸内地方において、来世からの使いだとされるもの。耳が長く垂れ下がった犬のような姿をしており、たそがれ時に死期が近づいた人の家の縁側などにやってきて、死期を知らせるという。沖永良部島にもインマオの話があり、やはり人の死ぬ前にそのマブリ(魂)をとりにくるのだとされる。
Yinlugen Bud
マレーシアのチェウォン族に伝わる、古代の木の幹の文化英雄的な精霊。英雄ブジャエン・イエドに赤子の取り上げ方など、出産にまつわる様々な儀式を教えた。また食事をする時、食べ物を他の人々に分けないで独り占めするのが罪であると教えた。