磯撫
いそなで
日本の妖怪の一種、あるいは怪魚。竹原春泉画、桃山人文の「絵本百物語」に見られる。同訓で「磯那で」とも書く。松浦(現在の長崎県松浦市)の沖や西海(現在の東シナ海)に出現する怪魚で、北風が荒く吹く時には必ず現れたという。釣り船ほどの大きさとともに尾ひれに逆さまに生えた鋭い針が特徴で、船が通りかかると船上の人を尾ひれで撫でるように遅い海中に引き込むとされる。絵本百物語には「鱣魚(ふか)の如く」と書かれているが、鱣魚(てんぎょ)は鱶(ふか)の他に川蛇(おそらくウナギのこと)、鯉の仲間など色々な魚のことを示すので判然としない。ただ挿絵だけを見れば(頭部は海中に没し描かれていないが)巨大な鯉のように見える。また多田克己氏はこの磯撫に逆さの針がついていることなどに留意し、「逆鉾(さかほこ)」と呼ばれていた鯱(しゃち)のことではないかと推測している。