ぬ行

ヌァザ

Nuada

ケルト神話における主神。ネヴィンを妻とする。トゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)の長。フォモール族との最初の戦いにおいて右腕を失い、「体の不自由な者は王になれない」という掟に従ってブレシュ王位を去ったが、治癒の神ディアンケトに銀で出来た義手をつけてもらったことで王位に返り咲いた。このことからヌァザは「銀の腕のヌァザ(ヌァザ・アグラドラーヴ=Nuada Airgetlamh)」と呼ばれるようになった(この二つ名はヌァザの持つ剣を意味するという説もある)。

ヌァザは銀製の義手に満足せずディアンケトの息子であるミアフに代替品となる義手を作らせた。この義手は血を肉から出来ており、本物の腕と退色なかった。これに嫉妬したディアンケトは息子ミアフを殺してしまう。こうしてヌァザは右手と王位を取り戻したが、フォモール族の血を引くブレシュが引き金となり、第二のフォモールとの戦いが引き起こされる。ヌァザはこの戦いに備え光の神ルーに王位を譲り、死を覚悟して戦いに臨んだ。ヌァザはフォモール族の首領バロール、あるいはその配下の竜クロウ・クルーアッハによって殺されたとされている。ブリタニアでは「ノデンス(Nodens)」、ウェールズでは「ニーズ(Nudd)」、ブリトン人には「リーズ(Llud)」の名で知られていた。

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ヌゥ

中国の少数民族、門巴(メンパ)族の原始宗教おいて三位のうち低位の神。他に高位の括、中位のがおり、いずれの人間に協力的な神で、白い姿をしているという。

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ぬえ

日本の妖怪で平安時代末期に紫宸殿に出現したという怪鳥。頭が猿、尾が蛇、胴体が狸、手足が虎という姿をしており、声は虎鶫に似ていたとされる。毎晩午前二時ごろに東三条の森の方から黒雲がやってきて紫宸殿を覆い、近衛天皇と側近を脅かしたので、源頼政が黒雲の中に見える影に向かって矢を放つとこの妖怪が落ちてきたという。頼政に射落とされた鵺は池に落ちたが、その池のほとりにあった石は「鵺石(ぬえいし)」と呼ばれ、触れば必ず祟りがあるために周りを石垣で囲まれたという。

本来「鵺」とは夜中や夜明けなどに寂しげに鳴く鳥のことを指す言葉だった。これは今で言うトラツグミのことで、この鳥は夜間にヒョーヒョーと人が悲しむような声で鳴く。

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ヌガニ=ヴァツ

Nugani-Vatu

メラネシアのフィジー諸島における巨大な怪鳥。「ヌグトゥ=レイ(Nugutu-Lei)」とも呼ばれる。その体はあまりにも巨大で、とまれば太陽を地平線から隠し、羽ばたけば地上に嵐を引き起こすという。特に人間を好んで捕食するとされる。あるとき英雄オコヴァの妻もヌガニ=ヴァツによって攫われて食べられてしまった。オコヴァは妻の兄であるココウアとともに復讐に出掛け、ヌガニ=ヴァツの住処であったサワイラウ島で二人で隠れて待っていた。別の犠牲者を捕まえて帰ってきたヌガニ=ヴァツは食べることに夢中で二人に気づかず、その間に二人はヌガニ=ヴァツの足の間に潜り込んで腹を深く槍で突き刺した。こうしてオコヴァは復讐を遂げた。ヌガニ=ヴァツの死体は崖から海に落とされたが、そのとき起きた波はずっと遠くにある島にまで達したという。ヌガニ=ヴァツの羽の一つはオコヴァの船の帆として利用された。

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ヌサコカムイ

アイヌにおいて蛇を顕現体とするカムイの一人。名前は「幣所を領有するカムイ」といった意味。御幣(アイヌ語で「イナウ」)はアイヌからカムイへの重要な贈り物であり、カムイには作れないとされている。御幣を飾る幣所は祭壇でもあり、ヌサコカムイはこの幣所を護る「パセカムイ(重要なカムイ)」として信仰された。蛇を顕現体とするカムイとしては他に「カンナカムイ」やその使いである「キナシュッウンカムイ」がいる。

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ヌージン・キ・デポンチュニー

gNod sbyin gyi sde dpon bcu gnyis, Nöjin gyi dépön chunyi

チベット仏教においての十二神将。名前は「12人の大将のヌージン(ヤクシャ夜叉)」といった意味。日本の十二神将のように十二支に振り分けられてはいないが、「ロコル・チュニー(Lo 'khor bcu gnyis, Lonkhor chunyi)」と呼ばれる十二年の周期と関連付けられることがある。従って十二支の動物の冠も着けていない。下に挙げた持物は一例でこれと一致しない作例もある。また左手には宝を吐き出すマングースを持つことが多い。

《ヌージン・キ・デポンチュニー》
No.チベット名梵名備考
01
ジジク
Ji 'jigs, Jijik
キンビーラ
Kumbhīra

"極畏"を意味する。黄色身で宝杵を持つ。

02
ドルジェ
rDo rje, dorjé
ヴァジュラ
Vajra

"金剛"を意味する。白色身で宝剣を持つ。

03
ギェンジン
rGyan 'dzin, Gyen dzin
ミヒラ
Mihira

"執厳"を意味する。黄色身で宝棒を持つ。

04
サジン
gZa' 'dzin, Zadzin
アンディーラ
Aṇḍīra

"執星"を意味する。緑色身で宝鎚を持つ。

05
ルンジン
rLung 'dzin, Lundzin
アニラ
Anila

"執風"を意味する。紅色身で宝叉を持つ。

06
ネーチェー
gNas bcas, Neché
シャンディラ
Śaṇḍila

"居処"を意味する。煙色身で宝剣を持つ。

07
ワンジン
dBang 'dzin, Wandzin
インドラ
Indra

"執力"を意味する。紅色身で宝棍を持つ。

08
トゥンジン
bTung 'dzin, Tungdzin
パジュラ
Pajra

"執飲"を意味する。紅色身で宝鎚を持つ。

09
マジン
sMra 'dzin, madzin
マホーラガ
Mahoraga

"執言"を意味する。白色身で宝斧を持つ。

10
サムジン
bSam 'dzin, Sandzin
キンナラ
Kiṃnara

"執想"を意味する。黄色身で羂索を持つ。

11
ヨジン
g.Yo 'dzin, Yodzin
チャトゥラ
Catura

"執動"を意味する。青色身で宝鎚を持つ。

12
ゾクジェー
rDzogs byed, Dzokjé
ヴィカラーラ
Vikarāla

"円作"を意味する。紅色身で宝鈴を持つ。

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ぬっぺ坊

ぬっぺぼう

日本の妖怪の一種。鳥山石燕の「画図百鬼夜行」に紹介されている。また江戸後期の国学者であった喜多村信節の著書にもその名が見えるが、いずれにしても絵と名前のみでどのような妖怪かは不明。大きな肉の塊に足がついたような化け物で目や口や頭はなく、また腕もない。が、その体の前面は、そこに顔があるかのように肉が垂れている。絵の背景に寺のような建物がかかれていることから、廃寺から現われて街を歩き回りまた消えるとか、その外見から死肉のような腐った匂いを放つなどに後世に想像されたようである。

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ヌート

Nut

古代エジプトの世界観において、天空を支える、或いは天空そのものを象徴する女神。大気の神シューと湿気や霧の女神テフヌトの間に生まれたとされる。最初、彼女は双子の兄である大地の神ゲブと硬い愛で結ばれ、常に抱き合っていたが、それを嫉妬した主神レーが大気の神シューを送り込んだ。大気(シュー)が空(ヌート)と大地(ゲブ)の間に割って入ることで二人は引き離され、子供を産むことが出来なくなってしまった。これを気の毒に思ったトトは、月とのチェス勝負に勝ち、一年に五日間だけ子供が産めるようにしたという。その結合から生まれた最初の神がオシリスであり、次いでオシリスの妻となるイシス、そしてオシリス(そしてその子ホルス)の仇敵となるセトが生まれた。沢山の星に覆われた体、あるいは星の模様がちりばめられた服を纏った女性の姿で表される。神話の通り、横たわったゲブの上に座ったシューに支えられる形で描かれることが多いが、時にはヌート単体でウアス笏とアンクを携えた姿で描かれることもあった。

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沼河比売

ぬなかわひめ

日本記紀神話に登場する女神の一人で、何人かいる大国主神の妻の一人。「ぬまかわひめ」とも読む。古事記に「沼河比売」の名で登場するほか、先代旧事本紀には「沼河姫(ぬなかわひめ)」ないし「高志沼河姫(こしのぬなかわひめ)」、出雲国風土記には「奴奈宜波比売(ぬながわひめ)」の名が見える。「高志(こし)」とは「越(こし)」、つまり越州のことで、古事記に拠れば大国主神はこの地に住んでいた沼河比売を妻にするため、沼河比売の家の外から求婚の歌を詠み、沼河比売もこでに歌で応え、翌日の夜に婚姻した。その後大国主神は正后である須勢理毘売の嫉妬を鎮めるためにもまた歌を詠んでいる。

古事記にはこれ以上のことは書かれていないが、出雲国風土記には「俾都久辰為命(へつくしいのみこと)」の子で大国主神との間に「御穂須須美命(みほすすみのみこと)」という神を生んだという。また先代旧事本紀には建御名方神が子神として記されている。

式内社である「奴奈川神社(ぬながわじんじゃ)」の祭神であるほか、諏訪大社の下社や美保神社の大后社などに祀られる。

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布がらみ

ぬのがらみ

日本の青森県三戸郡田子町長坂に出現するとされる妖怪の一種。長坂に昔あった布沼という沼の主で、布に化けて沼のほとりの垣根にかかり人が通るのを待っている。人がこれをみつけ取ろうとするとたちまち伸びて絡みつき沼に引きずりこまれるという。伝説によれば妻と娘を布がらみに殺された男が、鳩の卵を割って沼に投げ入れることによって退治したという。

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ヌプリケスン

アイヌにおいて熊を顕現体とするカムイ。「ヌプリケスングル」とも呼ばれる。名前には「山裾に住むもの」といった意味があり、その名の通り、山裾に住むといわれる。同じく熊を顕現体としている「キムンカムイ」とは異なり、悪意を持ったカムイだとされる。

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ヌム

Num

シベリアのサモイェード・ユラク族の神話に登場する神で、ンガとともに両神は創造神ないし最高神とされる。時の始まりとともにヌムは果てしなく広がる海を探検させるために数羽の鳥を次々とはなった。やがて一羽の鳥がほんの少しの砂(もしくは泥)を持ち帰ってきたのでそれによってヌムは浮島を作った。

ヌムは普段光の国に住んでいるが、大地が安全かどうかを調べるために時々戻ってくるとされる。大地が崩壊の危機にさらされたとき、シャーマンに対してンガの元を訪れるように指示したのもヌムである。

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ぬらりひょん

日本の妖怪で、「ぬうりひょん」とも言う。見た感じは頭の禿げた老人と何ら変わりはなく、上品な着物を着ていて商家の旦那風にも見える。悪いことはしないが、夕方になると何処からともなくやってきて人の家に上がり、皆が忙しくしている中で呑気にお茶などを飲んでいるという。そしてまた来た時と同じようにぬらりくらりとどこかへいってしまう。

こういった「勝手に他人の家に上がりこむが何もしないでお茶をすすっている」や「妖怪の総大将」といった説明は古い文献には見当たらないため、近代になってから付加された創作だと考えられる。鳥山石燕の「画図百鬼夜行」には「ぬうりひょん」の名前で紹介されているものの、説明は一切ない。また岡山県には「ぬらりひょん」という名の妖怪の話が伝わっているが、これは石燕の書いた「ぬうりひょん」とは別物のようである。このぬらりひょんは備讃灘辺りの海上に出現する人の頭くらいの玉で、船を寄せて取ろうとするとヌラリと逃れて底に沈み、またヒョンを浮かんでくるという海坊主の類いの妖怪である。

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ヌリアジュク

Nuliajuk

イヌイットのネツィリック族の伝説に伝わる海獣の母。海の女神セドナに非常に良く似ている。昔、ネツィリック族が新しい狩場を見つけようと、現在の居留地を棄てようしていた時のこと。彼らはカヤック(海獣の猟に用いる小舟)をつないでイカダを作ったのだが人数が多すぎてイカダに空きがなかった。孤児であったヌリアジュクは少年達に海の中に投げ込まれ、イカダの縁を掴もうとした手も切り落とされ、海に沈んでいった。切り落とされた指は海の中に沈むにつれアザラシとなった。そして彼女自身は海の精霊となり、全ての海獣の母、ひいては陸の生き物の母にもなったという。

ヌリアジュクは海中において地上と変わらないような家を建て、恐ろしい精霊に囲まれて暮らしているとされる。人間のタブー破りを見張っており、どんな小さなタブーを侵した場合でも全ての動物達を隠してしまうといわれている。そうなると、人々はシャーマンの力を借りなくては、再び動物の姿を見ることは出来なくなる。

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塗壁

ぬりかべ

日本の妖怪で、福岡県遠賀郡の海岸近くの夜道などに出現する。暗い道を一人で歩いている時に、通りを塞ぐように壁のようなものが出現する。これが塗壁で、壁の横などを通ろうとしても壁は何処までも続いていて前へは進めないという。因みに手足は顔などはついていない。塗壁に遭ったときは落ち着いて壁の下の部分を棒でつつくを消えると言う。

化け物絵巻には同じく「ぬりかべ」という名前の妖怪画が見られるが、こちらは三つ目の白い犬の様な姿をしており、伝承の塗壁とは異なる姿をしているため、関連性を疑問視されている。

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塗仏

ぬりぼとけ

日本における妖怪の一種。佐脇嵩之画の「百怪図巻」や、湯本豪一氏所蔵の「化物づくし・湯本C本」と呼ばれる絵巻、絵双六「十界双六」などに描かれたもの。身色が黒色で上半身が裸、腰に白布を着けており、眼球が眼窩からこぼれてぶら下がった姿で描かれる。ただし「湯本C本」では眼球は落ちておらず、印を結び白毫があるなど、「仏」に近い描き方をしており、また「十界双六」でも眼球は落ちていない。また熊本県八代市の松井家に伝わる「百鬼夜行絵巻」では「黒坊(くろぼう)」の名で同様の化物が描かれている。「百怪図巻」、「湯本C本」、「十界双六」、「百鬼夜行絵巻」に共通する特徴として、背中から足の方に垂れた、黒い何かが描かれており、「湯本C本」と「十界双六」では判然としないが長髪のように描かれ、「百怪図巻」では魚の尾びれのように、「百鬼夜行絵巻」では哺乳類の尻尾のように描かれている。鳥山石燕も「画図百鬼夜行」において塗仏を描いており、これは仏壇から飛び出した姿で描かれ背中は隠れて見えないようになっている。

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濡れ女

ぬれおんな

日本の妖怪で、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」、あるいは「化物絵巻」や「化物づくし」といった妖怪絵巻に見られる。蛇の頭の部分が若い女の上半身(あるいは頭のみ)になっている化物で、川に棲んでいる。殆どの文献が絵のみで詳細を伝えないが、川面に上半身だけ出して髪を洗っている女の振りをして油断させ、近づいてきた人間を尾で巻き込み殺す妖怪と考えられる。また濡れ女の尾は三町(およそ327メートル)先まで届くので、見つかったら最後、助かる手立てはないという。

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ヌン

Nun

エジプト神話において原初の混沌の海を人格化した存在。ギリシア神話のカオスに相当する。全ての神と世界はヌンを根源とするとされる。ヌンは球形で全ての生物や物質の素が溶け込む淀んだ水の姿をしていたとされる。まず創造神アトゥムが自らの意思でヌンより浮かび上がって誕生し、その後に生まれる全ての基礎を作り上げた。また太陽神であるレーもヌンから生まれたとされることもある。ヘリオポリスでは単身で信仰されたヌンだが、ヘルモポリスではナウネトという妻と一対で原初の水を象徴していると考えられた。男性、もしくは蛙の頭を持った人間の姿でも表される。頭には二本の羽、もしくは自分の名を表す三つの水がめが台に置かれたヒエログリフを頂く。

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