アステカでは260日暦、365日暦、584日暦の三つの暦が使われていた。
260日暦は「トナルポワリ(Tonalpohualli)」と呼ばれ、おそらく元は産婆が出産日を計算するためのものだったのではないかと考えられている(月経が止まったときから出産までの約9ヶ月に相当する)。この暦は20個の名前のシンボルと13個の数字の組み合わせで260日を数える。
365日暦は「シウトル(Xíutl)」と呼ばれ18ヶ月の暦月たる名前と各月に20の暦日を持っている。この月のことを考古学者たちは、便宜上「ベインテーナ(The Veintanas=スペイン語)」と呼んでいる。18ヶ月×20日=360日となり、太陽年に5日だけ足りないが、この5日間は18ヶ月が終わった最後に名前の無い期間「ネモンテミ(Nemontemi)」として設けられ、不吉な期間とされた。
584日暦は金星の周期である。
260日暦は祭事暦であり、とくに重要視された。また、260日暦と365日暦は52年に一度合致し、その年は「シウモルピリ(Xiuhmolpilli)」と呼ばれ一つのサイクルとみなされた。シウモルピリの年には「トシウモルピリア(Toxiuhmolpilia)」と呼ばれる盛大な再生儀式が行われた。
また金星の周期である584日は5回繰り返すと365日暦の8年と合致するため、やはり8年ごとに「アタマルクアリストリ(Atamalcualiztli)」と呼ばれる儀礼が行われた。
さらに260日暦、365日暦、584日暦の三つの暦は104年に一回合致する。この年は「ウエウエチリストリ(Huehuetiliztli)」と呼ばれた。
センポワリ(Cenpohualli)
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名称/意味 |
守護神 |
吉凶 |
方位 |
01 |
- シパクトリ
- Cipactli / ワニ
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トナカテクートリ |
吉 |
東 |
02 |
- エヘカトル
- Éhecatl / 風
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ケツァルコアトル |
凶 |
北 |
03 |
- カリ
- Calli / 家
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テペヨロートリ |
吉 |
西 |
04 |
- クェツパリン
- Cuetzpallin / トカゲ
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ウエウエコヨトル |
吉 |
南 |
05 |
- コアトル
- Cóatl / 蛇
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チャルチウィトリクエ |
吉 |
東 |
06 |
- ミキストリ
- Miquiztli / 死
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テクシステカトル / メストリ |
凶 |
北 |
07 |
- マサトル
- Mazatl / シカ
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トラロック |
吉 |
西 |
08 |
- トチトリ
- Tochtli / ウサギ
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マヤウェル |
吉 |
南 |
09 |
- アトル
- Atl / 水
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シウテクトリ |
凶 |
東 |
10 |
- イツクイントリ
- Itzcuintli / 犬
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ミクトランテクートリ |
吉 |
北 |
11 |
- オソマトリ
- Ozomatli / 猿
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ショチピリ |
中性 |
西 |
12 |
- マリナリ
- Malinalli / 草
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パテカトル |
凶 |
南 |
13 |
- アカトル
- Ácatl / 葦
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テスカトリポカ / [itutorakoriuki] |
凶 |
東 |
14 |
- オセロトル
- Océlotl / ジャガー
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トラソルテオトル |
凶 |
北 |
15 |
- クアウートリ
- Cuauhutli / ワシ
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シペ・トテック |
凶 |
西 |
16 |
- コスカクアウートリ
- Cozcacuauhtli / ハゲタカ
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イツパパロトル |
吉 |
南 |
17 |
- オリン
- Ollin / 動き・地震
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ショロトル |
中性 |
東 |
18 |
- テクパトル
- Técpatl / 火打石のナイフ
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テスカトリポカ / チャルチウトトリン |
吉 |
北 |
19 |
- キアウィトル
- Quiáhuitl / 雨
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トナティウ / チャンティコ |
凶 |
西 |
20 |
- ショチトル
- Xóchitl / 花
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ショチケツァル |
中性 |
南 |
トナルポワリは20の絵文字と13の数字の組み合わせからなり、20の絵文字は「センポワリ(20、ないし20を数えること)」と呼ばれた。
その数え方は「1のシパクトリ」、「2のエヘカトル」…「13のアカトル」で第一週、「1のオセロトル」、「2のクアウートリ」…「13のミキストリ」で第2週と数える。この13日の週を考古学者は便宜上「トレセーナ(The Trecenas=スペイン語)」と呼んでいる。
それぞれのトレセーナは最初の日のセンポワリを冠して「シパクトリのトレセーナ」、「オセロトルのトレセーナ」と呼ばれる。例えば「1のアトル」で始まる第17週の「アトルのトレセーナ」となる13日間は、基本的に不吉な期間であると考える。
しかし、トレセーナごとにも関連する神が設定されるので、その吉凶の決定は複雑となる。これを調べ、占うための専門の役職があった。
ベインテーナ
月 |
月の名前 |
別称 |
祭神 |
01 |
- イスカリ
- Izcalli / 復活
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- ショチトカ
- Xochitoca / 植物・花
- ショチイルウィトル
- Xóchilhuitl / 花祭りの日
- ウアウーキルタマルクアリストリ
- Huauhquiltamalcualiztli / タマーレスを食べる
- ピラウアナリストリ
- Pillahuanaliztli / 子供達の酩酊
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シウテクトリ
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02 |
- アトルカワロ
- Atlcahualo / 水を残す
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- クアウーウィトレウア
- Cuauhitleua / ポールを立てること
- シロマナリストリ
- Xilomanaliztli / 若いメイズを捧げること
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トラロック チャルチウィトリクエ ケツァルコアトル(エヘカトル)
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03 |
- トラカシペウアリストリ
- Tlacaxipehualixtli / 人間の皮を剥ぐ
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シペ・トテック
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04 |
- トソストントリ
- Tozoztontli / 短い見張り
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トラロック チャルチウィトリクエ シンテオトル チコメコアトル
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05 |
- ウエイトソストリ
- Hueytozoztli / 偉大な見張り
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シンテオトル チコメコアトル トラロック
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06 |
- トシュカトル
- Tóxcatl / 渇いたもの
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- テポポチトリ
- Tepopochtli / ほとんど湿気のない丘
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テスカトリポカ
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07 |
- エツァルアリストリ
- Etzalcualiztli / メイズと豆の食事
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トラロック チャルチウィトリクエ
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08 |
- テクイルウィトントリ
- Tecuilhuitontli / 神々の小さな祝祭
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ウィシュトシワトル
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09 |
- ウエイテクイルウィ
- Hueytecuilhuitl / 神々の大祭
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シローネン シワコアトル
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10 |
- ミカイルウィトントリ
- Miccailhuitlontli / 死者の小さな祝祭
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- トラショチマコ
- Tlaxochimaco / 花を渡すこと
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ウィツィロポチトリ テスカトリポカ
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11 |
- ウエイミカイルウィトル
- Hueymiccailhuitl / 死者の大祭
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- ショコトルウェッツィ
- Xocotlhuetzi / 花を渡すこと
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シウテクトリ ヤカテクートリ
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12 |
- オチュパニストリ
- Ochpanitztli / 道を掃く
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- テナウアティリストリ
- Tenahuatiliztli / 綺麗に片付けること
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テテオインナン=トシ チコメコアトル
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13 |
- パチトントリ
- Pachtontli / 少量の干草
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- エコストリ
- Ecoztli / 血を捧げること
- テオトレコ
- Teotleco / 神々の来訪
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ウィツィロポチトリ テスカトリポカ ヤカテクートリ
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14 |
- ウエイパチュトリ
- Hueypachtli / 沢山の干草
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- ピラウアナ
- Pillahuana / 子供達が飲む
- テペイルウィトル
- Tepeilhuitl / 山の祭儀
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トラロック テピクトトン
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15 |
- ケチョリ
- Quecholli / 貴重な羽根
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- トラコケチョリ
- Tlacoquecholli / ケチョリの半分
- トラミケチョリ
- Tlamiquecholli / 山の祭儀
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ミシュコアトル カマシュトリ
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16 |
- パンケツァリストリ
- Panquetzaliztli / 旗を掲げる
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ウィツィロポチトリ
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17 |
- アテモストリ
- Atemoztli / 雨が降る
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トラロック
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18 |
- ティティトル
- Tititl / 縮んだもの
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イラマテクートリ
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(19) |
- ネモンテミ
- Nemontemi / 不必要なもの
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-
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アステカでは一日の時刻にも関連する神が設定されていた。昼と夜はそれぞれ13と9の時刻に分けられ、これらは13層の天界(総称して「トパン(Topán)」と呼ばれる)、9層の地下世界(総称して「ミクトラン(Mictlán)」と呼ばれる)と関連している。
「昼の神々」は時刻を表すのとは別に特定の暦日を示す記号と数字が当てられている。また、トナルポワリのトレセーナとなる13日とも関連していた。また天界と関連して13種類の鳥(飛翔動物)も守護者とされた。この13柱の神は創世神話でそれぞれ5つの太陽を司っていた神(テスカトリポカ、ケツァルコアトル、トラロック、チャルチウィトリクエ、トナティウ)を含んでいる。
「夜の神々」も夜の時刻を表すと同時に暦上の特定の暦日や吉凶と関連していた。一部の神は「昼の神々」であるとともに「夜の神々」でもあった。