ア・プチ
Ah Puch
マヤ神話における死の神。九つの層に分かれた地下の冥界「シバルバー」の、最も深い9層目の世界「ミトナル(mitnal)」を支配している。この世界に棲む悪鬼達の王として、「フン・アハウ」という別名も持っている。またユカタン半島では「ユン・シミル」とも呼ばれる。高位の神イツァムナの宿敵であり、なおかつ農耕神ユン・カーシュとは非常に不仲であるとされる。マヤの20日ある暦月の6日目を司り、数字の10と方角の南、色の黄色を象徴する。死を象徴するア・プチは戦いや生贄の神々と近い関係にあると考えられ、犬、ムアン鳥、フクロウなどを伴って表される。ムアン鳥やフクロウは、メソアメリカにおいて不吉の象徴で死の前兆であった。
その姿は、あごから肉が削げ落ち、腐敗を表す黒点が身体中に浮き出て、背骨や肋骨があらわになった姿をしている。また、鈴を身につけた膨張した死体として表されたり、骸骨そのものとして描かれることもあった。彼を表すための象形文字は、生贄解体用のナイフやパーセント記号に似たモチーフが使われた。死の国に新たな住人を招くべく、病人や死期のせまった人間の家をうろつき回るという。その姿や役割はアステカのミクトランテクートリに相似している。