お歯黒べったり
おはぐろべったり
日本の妖怪の一種で、のっぺら坊のように目も鼻もない顔に鉄漿(おはぐろ)で歯を染めた大きな口だけがある女の妖怪。竹原春泉画、桃山人文の「絵本百物語」で紹介されている。単に「歯黒(はぐろ)べったり」とも呼ばれる。夜に人通りの少ない路地に現われ、泣いているかのように手で顔を隠して立っている。心配に思った人が声をかると、振り返って鉄漿(おはぐろ)でべったりと染めた歯を覗かせてにたにたと笑って驚かす。
「絵本百物語」に描かれたお歯黒べったりは角隠しに振袖姿という婚礼の格好をしている。また女性がお歯黒で歯を染めるのは婚約した証であるので、お歯黒べったりは結婚式前に死んだ女の亡霊だとする説がある。しかし桃山人は「狐狸の化けそこなったもの」と文に書いているのでそのような意図がある可能性は低い。それよりお歯黒べったりが髪を総角(あげまき。揚巻とも書く)に結っていることに着目し、「源氏物語」の第47帖「総角」にちなんだ絵解きではないかとする説のほうが有力である。この総角の巻では男を愛しつつも独身を通し亡くなった宇治の大君について描かれている。また第53帖「手習」にはのっぺら坊に間違えられた女性の描写がある。