トラロック

メキシコ中央部、ティオティワカンの神。メソアメリカの神々のうちで最も古くかつ根源的な神であり、生命の付与者であるとともに破壊の源泉として信仰されていたが、何にもまして雨の神として信仰された。語形はトラリ(tlalli「大地」)とオク(oc「表面にあるもの」)から。オルメカの神"第IV神"がその祖形と考えられている。マヤのチャク(Chac)、ミシュテカのザウィ(Dzahui)、トトナカのタヒン(Tajine)、サポテカのコシーオ(Cocijo)、(そしておそらく)タラスコのチュピティリペメ(Chupithiripeme)を直接の対応神とする。 アステカの首都テノチティトランでは、純粋にアステカの神であるウィツィロポチトリ(Huitzilopochtli)と同等の地位を与えられており、この2神は双神殿で祀られた。トラロック(Tlaloc)の神殿は漆喰で覆われ、(水を象徴する)明るい青と白で彩色されていた。双方の神官達はアステカ社会において同等の地位を与えられていた。チャルチウィトリクエ(Chalchihuitlicue)を姉妹神、あるいは配偶神とし、トラロック(Tlaloc)はこの女神とともにトラロケ(トラロック(Tlaloc)一族)を支配した。トラロケとは、二人の妻、つまり神話上でテスカトリポカ(Tezcatlipoca)に誘拐されたとされているマクウィルショチトル(Macuilxochitl)とマトラルクエイトル(Matlalcueitl)、そして羽毛の蛇ケツァルコアトル(Quetzalcoatl)などの神をさす。 アステカの暦日(センポワリ)の中の7番目である「マサトル(Mazatl=鹿)」を司り、また365日暦の暦上では9のオセロトル(9のジャガー)である。さらに昼の時刻を示すトナルテウクティン(Tonalteuctin)の8番目、夜の時刻を示すヨワルテウクティン(Yohualteuctin)の9番目を司る。雨や雲、雷を司り、彼の力の顕れは、ある時は恵みの雨となり、またある時は人々に害をもたらす嵐となる。山の何箇所かの洞穴に住み、それらの洞穴は富と栄華に満ちた素晴らしい宝物殿であるという。稲妻、トウモロコシや水と共に描かれ、ギョロリとした目とジャガーの歯を持っている。水と海に関係した神で、時によって寛大にも無慈悲にもなるとされた。また、トラロック(Tlaloc)はトラロカン(Tlalocan)という死後の楽園を支配する神でもあった。トラロカンは「霧と水の国」とも呼ばれ、大きな変化も無く牧歌的に日々が過ぎ行く平和な場所であるという。そこに集った魂は、トウモロコシなどの豊富な食物や花々に囲まれた安穏とした生活を四年ほど送った後、再び現世に戻ってくると信じられた。トラロカンにいける資格をもつの者は、雷、水害、伝染病、癩病で命を落としたものであるという。 トラロック(Tlaloc) 1898 「ボルギア絵文書(Codex Borgia)」より ロストック大学図書館(Universitätsbibliothek Rostock)蔵 Copyright: public domain トラロック(Tlaloc) 1898 「ボルギア絵文書(Codex Borgia)」より ロストック大学図書館(Universitätsbibliothek Rostock)蔵 Copyright: public domain トラロックとチャルチウィトリクエ(Tonacatecuhtli and Chalchihuitlicue) 1898 「ボルギア絵文書(Codex Borgia)」より ロストック大学図書館(Universitätsbibliothek Rostock)蔵 Copyright: public domain 水に関する神である男神トラロック(左)と女神チャルチウィトリクエ(右)

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