サチェン・ラーフラ

チベット仏教におけるチョキョン(=護法神=ダルマパーラ(Dharmapala, Dharmapāla))の一人で、インドのラーフ(Rahu, Rāhu)が変容したもの。名前は「執曜のラーフラ」を意味する。また「サチョク・ギェルポ・ラーフラ(gZa' mchog rgyal po ra hu la, Zamchok gyelpo rahula="執曜の最高の王者")」、「キャプジュク・チェンポ(Khyab 'jug chen po, Khyamjuk chenpo)="偉大なヴィシュヌ(Visnu)"」といった名でも呼ばれる。 インドでは元々はアスラ(Asura)だったとされるラーフ(Rahu, Rāhu)だが、チベットでは元々人間の僧侶だったが無実の罪で国王に焚殺されたあと、怨念で国王の4人の娘を発狂死させ(その後国王も非を悔いて焼身自殺した)、ヤクシャ(Yakṣa)に生まれ変わった姿だとされる。インド神話ではヴィシュヌ(Visnu)に退治されるが、チベット仏教では執金剛秘密主(=金剛薩埵(Vajrasattva))に調伏されたと伝わっている。前述の別名と「キャプジュク」は元々はヴィシュヌ(Visnu)に対する訳語であり、ラーフ(Rahu, Rāhu)の伝説が伝わる過程で退治した者(ヴィシュヌ(Visnu))と退治された者(ラーフ(Rahu, Rāhu))が混同されたものと思われる。 チベットでは中風やてんかんは「サネー(gZa' nad, Zané="執曜の病")」と呼ばれ、サチェン・ラーフラ(gZa' chen ra hu la, Zachen rahula)のまき散らす毒気に当てられたものと考えられていたため、サチェン・ラーフラ(gZa' chen ra hu la, Zachen rahula)の護符を身に着けこれを除けるという信仰があった。ニンマ派においてはレルチクマ(Ral gcig ma, Relchikma)、タムチェン・ドルジェレク(Dam can rdo rje legs, Damchen dorjé lek)とともに「マサタム・スム(Ma gza' dam gsum, Mazadam sum)」と呼ばれタンカの下部に三尊で描かれることが多い。三面が縦に三つ連なった九頭で全てが忿怒相の額にも目がある三目、その上にカラスの頭が付いており、四臂で右の第一臂はマカラ鐘、左の第一臂は蛇索を持ち、また左右第二臂で弓矢を引き絞る。身体中に目が付いており、下半身は蛇身で、逆三角形の台の上にとぐろを巻くように描かれる。

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