ミトラ

ミトラ（Mithra）教における主神。「ミトラス」と呼ばれることもある。もともとは古代ペルシアで信仰されていた太陽神だと思われるが、その後ゾロアスターの宗教改革によって、ヤザタ（Yazata）の一柱とみなされ、真実を司り、アフラ・マズダ（Ahura Mazdāh）を助ける者と考えられた。その後小アジア近隣に伝導され、これらの土地でミトラ（Mithra）神を創造・救済の神としたミトラ（Mithra）教が成立。ミトラ（Mithra）教は男性のみの宗教で、一世紀後半にはローマ帝国でも多くの兵士達に信仰された。オリエント地方だけでなく、ローマ帝国の拡張に伴いアフリカ、スペイン、ガリア、ブリタニアなどにも神殿が建てられた。しかし、四世紀以降キリスト教の圧迫によってその勢力は衰えるに至った。 ミトラ（Mithra）教の信徒はミトラ（Mithra）の英雄的行為によって現世の苦難から救済されると信じた。神殿には牛を屠るミトラ（Mithra）の図像が描かれている。インドのミトラ（Mithra）と同じく、契約、友誼、信義などを守護し、正義を司る司法者的性格を持っている。 ゾロアスター教聖典「アヴェスター」においては棍棒を武器にしてウルス・ラグナ（Veresraghna）を率い悪魔を退治する勇猛な戦神として登場する。ヤザタ（Yazata）の一員であり太陽として人々に光明と恵みを与えるほか、スラオシャ（Sraosha, Sraoša）やラシュヌ（Rashnu）を従え死んだ人間の魂を裁く死後の裁判官ともされた。 19世紀フランスの歴史・言語・文献学者であるエルンスト・ルナンは「もし何らかの致命的な病によってキリスト教　の成長が止まっていたら、世界はミトラ（Mithra）教化していただろう」という言葉によって有名になったが、一方キリスト教がなくてもミトラ（Mithra）教はそれほど広まらなかっただろう、と見る学者も多い。