金剛薩埵

仏教において菩提心(悟りを得ようとする心)を体現する尊格。サンスクリットで「ヴァジュラ・サットヴァ(Vajrasattva)」と称する。名前は「勇猛堅固な心を持つもの」といった意味する。ほかに「金剛薩埵菩薩(こんごうさったぼさつ)」、「執金剛(しゅうこんごう)」、「金剛手秘密主(こんごうしゅひみつしゅ)」などの名で呼ばれるほか、「嚩日囉薩怛嚩(ばじらさったば)」、「縛日羅薩埵縛(ばじらさったば)」などと音写する。金剛手菩薩や執金剛神(Vajradhara, Vajrapāṇi)、密迹金剛(Guhyapāda-vajra)といったバジュラパーニ(ヴァジュラを持つ者)を起源とする尊格の中でも特に重要視される仏尊であり、揺ぎ無い菩提心を象徴し大日如来(Mahāvairocana)の教えを人々に伝授する仲介者として信仰された。一切衆生の迷いの総体であるとともに、一切衆生に菩提心を発生させる、菩提心の本体であると解釈される。胎蔵界曼荼羅では金剛部院(金剛手院)の主尊として院中央に、金剛界曼荼羅では東輪の阿閦如来(Akṣobhya)に属し、十六大菩薩の主尊であり、成身会、三昧耶会、微細会、供養会では阿閦如来(Akṣobhya)の西方(上側)に、理趣会では主尊として中央に、四印会では東輪に単独で配される。右手に五鈷杵、左手に五鈷鈴を持った姿で表されることが多い。また滅罪生善のための修法「五秘密法」においても主尊であり、五秘密曼荼羅では金剛薩埵(Vajrasattva)とその四種の徳を表す四尊が配される。 密号は「真如金剛(しんにょこんごう)」、「大勇金剛(だいゆうこんごう)」、「勇進執金剛(ゆうしんしゅうこんごう)」、種字は「अ(a)」、「आ(ā)」、「आः(āḥ)」、「बः(baḥ)」、「हूं(hūṃ)」、「ॐ(oṃ)」、「स्त्वं(stvaṃ)」、「वं(vaṃ)」、印相は外五鈷印、内五鈷印、真言は「曩莫三滿多嚩日囉赧嚩日羅怛摩句唅」(金剛薩埵真言・T0852)、「唵摩賀素佉縛曰羅薩怛縛弱吽鑁斛素羅多薩怛鑁」、「唵三昧耶薩怛鑁(おんさまやさとばん)」(三昧耶会)、「唵嚩日囉薩怛嚩噁(おんばざらさとばあく)」(羯磨会)、三昧耶形は五鈷杵、三鈷杵。 金剛薩埵 「大正新脩大藏經図像部 第1巻」 「金剛界九會大曼荼羅 仁和寺版」より 大蔵出版 ©大蔵出版及びSAT大蔵経データベース研究会(Licensed under CC BY-SA 4.0) 金剛界曼荼羅の理趣会における図像。身は肉色、右手で胸の前に五鈷杵を斜めに持ち、左手は金剛鈴を持って腰におく。 金剛薩埵 成身会 国訳秘密儀軌編纂局 編 「新纂仏像図鑑 地之巻」より 国立国会図書館蔵 Copyright: public domain 身は肉色、右手で胸の前に五鈷杵を斜めに持ち、左手は金剛鈴を持って腰におく。 金剛薩埵 供養会 国訳秘密儀軌編纂局 編 「新纂仏像図鑑 地之巻」より 国立国会図書館蔵 Copyright: public domain 両手で独鈷杵を茎とする未敷蓮華を持つ。 金剛薩埵 「大正新脩大藏經図像部 第1巻」 「金剛界九會大曼荼羅 仁和寺版」より 大蔵出版 ©大蔵出版及びSAT大蔵経データベース研究会(Licensed under CC BY-SA 4.0) 金剛界曼荼羅の四印会における図像。右手で胸の前に五鈷杵を斜めに持ち、左手は金剛鈴を持って腰におく。 金剛薩埵菩薩 「大正新脩大藏經図像部 第1巻」 「大悲胎藏大曼荼羅 仁和寺版」より 大蔵出版 ©大蔵出版及びSAT大蔵経データベース研究会(Licensed under CC BY-SA 4.0) 胎蔵界曼荼羅の金剛手院における図像。身は肉色、右手は三鈷杵を横たえ胸の前に持ち、左手は金剛拳を結び親指を前にして胸に当て、赤蓮華座に結跏趺坐する。 五秘密 「大正新脩大藏經図像部 第3巻」 京都仁和寺蔵「別尊雑記」より 大蔵出版 ©大蔵出版及びSAT大蔵経データベース研究会(Licensed under CC BY-SA 4.0) 五秘密瑜伽法、五秘密儀軌に拠る。金剛薩埵(Vajrasattva)と四金剛菩薩(欲金剛菩薩(Iṣṭavajra)、触金剛菩薩(Kelikilavajra)、愛金剛菩薩(Rāgavajra)、慢金剛菩薩(Mānavajra))の五尊を同一月輪同一蓮華座に配し、煩悩即菩提を表現する。

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