チベット仏教における忿怒尊の一種でサンスクリット名「ヴァジュラバイラヴァ(Vajrabhairava)」がチベット語に訳されたもの。名前のドルジェは「金剛」を、ジクチェは「破壊者」や「恐るべき者」を意味する。ドルジェジクチェ(rDo rje 'jigs byed, Dorjéjikjé)はシンジェシェ(gShin rje gshed, Shinjeshé)(→ヤマーンタカ=大威徳明王(Yamāntaka))の一形態で、チベットでは三態のシンジェシェが伝わっており、これら三尊をまとめて「シンジェシェ・マルナクジク・スム(gShin rje gshed dmar nag 'jigs gsum, Shinjéshe marnanjik sum)=ヤマーンタカ(シンジェシェ(gShin rje gshed, Shinjeshé))の赤(マル)、黒(ナク)、怖畏(ジク)の三神(スム)」と呼んでいる。ドルジェジクチェ(rDo rje 'jigs byed, Dorjéjikjé)はこの中でも最も凶暴な化身であり、怨敵調伏などの修法に用いられたとされる。ゲルク派では宗祖ツォンカパの守護尊とされ、ドルジェジクチェ(rDo rje 'jigs byed, Dorjéjikjé)を本尊とし種々の護法神を配した「グンカン(mGon khang, gönkhang)」が主要な寺院に建立された。 ドルジェジクチェ(rDo rje 'jigs byed, Dorjéjikjé)は色々な姿で描かれるが、このうち最も多いのは青黒色の九面三十四臂十六足像で、単独尊として描かれるほか、曼荼羅の主尊としても描かれる(持物は下表参考)。九面は中央が角のある水牛で、その上に赤い羅刹(Rakshasa, Rākṣasa)面、一番上に本地とされるジャムペルヤン(=マンジュシュリー=文殊菩薩(Mañjuśrī))の瞋怒面、また水牛面の左右に三面ずつ(右内側から黄色、青色、赤色、左内側から灰色、白色、黒色)忿怒面の合計九面でいずれも額に第三眼を持つ。左右第一手でカパーラ(髑髏杯)とカルトリ(曲刀)を持ちながら両手を交差し、妃である青黒色の体の「ドルジェ・ロランマ(rDo rje ro lang ma, Dorjé rolangma)」=「ヴァジュラヴェーターリー(Vajravetālī)」を抱擁する。十六本の足は右の八足で人間、水牛、象、騾馬、駱駝、犬、山羊、狐などを、また左の八足で鷲、梟、小烏鴉、鸚鵡、隼、ガルダ(Garuḍa)、八哥鳥、大白鳥などを踏みつける。 配偶神ヴァジュラヴェーターリーを伴うヴァジュラバイラヴァ Vajrabhairava with His Consort Vajravetali メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)蔵 18世紀 チベット Copyright: public domain (OASC)
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