チベット仏教においてインド仏教にはない独自の仏尊であり、怒りの執行者「ダクシェ(Drag gshed, Drakshé)」の一尊。「姉妹」を意味する「チャムシン(lCam sring, Chamsing)」の名で呼ばれることもある。この名で呼ばれるのは「ドンマルマ(gDong dmar ma, dongmarma)」という名の妹の尊格を持つからで、ベクツェ(Beg tse, Bektsé)自身は男性の尊格と考えられている。 ベクツェ(Beg tse, Bektsé)はダライラマ三世(1543-1588)が内モンゴルに招聘されたとき、布教を妨害しようとして調伏され、仏教の護法神となったとされている。このため「ベクツェ(Beg tse, Bektsé)」という名前も「鎖帷子を着た」というモンゴル語が起源だと考えられている。名前の通り鎖帷子を着た赤い身色の忿怒相で、一面二臂ないし一面一臂、右手で炎を伴った銅剣を振り上げ、右腕で弓矢と長槍を抱きながら仏敵の心臓を持ち口で啜る姿で表される。また脇侍として前述のドンマルマを左に、眷属の「ソクダク・マルポ(Srog bdag dmar po, Sokdakmarpo)」を右に、さらに下部ないし周囲には「ティトクセンパギェ(gRi thogs bzan pa brgyad, Dritokzenpagyé)=刀を持った八人の屠殺者」と呼ばれる眷属が描かれる。
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