フェニキア神話における植物神。「バール(Ba'al)」という語には「主人」ないし「所有者」といった意味があり、神の総称として使われることもあったので、カルタゴでは他のバール(Ba'al)と区別し「バール・ハダト(Ba'al Hadad)」と呼ばれた。父なるエシュ(Eshu)と母なるアシェラと共に主要な三柱の神の一柱をなす。海の恐ろしい神ヤム(Yam)と戦った戦神であり、山岳神としても崇拝されていた。ゲバル人にはアドン、或いはアドニス(Adnis)と呼ばれていた。ギリシア神話でアドニス(Adonis)と呼ばれ、テュロス人はメルカルト(Melqart)、シドン人はエシュムンと呼んでいたらしい。バール(Ba'al)は神であるが不死ではなく、穀物が実る夏から秋にかけて一度死に、春になって種子が芽吹くと共に再び蘇る、ということを毎年繰り返す。植物の神バール(Ba'al)と不毛の神モト(Mot)との戦いを通して象徴されるこの物語は、キリストの死と再生の説話の原型になったと考えられている。バール(Ba'al)は猪と戦って大体の内側を負傷して死んだとされており、その血はアドニス河に流れ込み河を赤く染める。実際アドニス河は赤い土が混ざって赤褐色になる季節がある。またバール(Ba'al)は精力家としても知られており、恋人のアナト(Anat, Anath)を一晩に88回抱いたと豪語している。バール(Ba'al)はアナト(Anat, Anath)とともにエジプトの神としても迎えられ、豊穣と死、そして戦争の神として信仰された。バール(Ba'al)はエジプトでは縦に長く二本の短い角が生えたペルシャ風頭巾を被り、房飾りの付いた腰布をまとった人間の男性の姿で描かれた。
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