天宇受売命

「古事記」には天宇受売命で登場し、他に同訓で「天鈿女命」(「日本書紀」、「古語拾遺」)とも書く。「宇受(うずめ)」とは「かんざし」を意味し、髪飾りをして神を祭る女神、ないし神憑った女性を神格化した姿だと考えられる。天照大御神が天岩戸(あまのいわと)、或いは天岩屋戸(あまのいわやど)に隠れた、いわゆる「岩戸隠」の話で、大御神を外へ誘い出すために洞窟の前で踊りを披露した女神。天宇受売命のその時の踊りを要約すると、「胸をはだけて乳房を露出し、さらに腰の紐をほどき、衣を下げて女陰に紐を押し当てた」といった感じである。この踊りは天照大御神の怒りをなぐさめ、和らげるもので、ひいては日の神を回復させるものである。そこから、神を祭りなぐさめる為に神前で舞を奉じる神楽の始まりとされ、天宇受売命はその祖神とされる。神楽の語源は「神座(かみくら)」であると言われ、これは神を招き、降臨してきた神を歓迎し祝福するために、神座(神の宿る場)において踊りをささげる事である。また神楽とは同時に、神の心を楽しませ和らげる「神遊び」という意味も含まれており、そうした神楽から日本の様々な芸能が派生した事から、天宇受売命は、日本における芸能の源流の神ともされているのである。また、天宇受売命が神懸りして踊る様子を「俳優(わざおぎ)をなして(滑稽な動作をして舞い歌い、神や人を楽しませること)」と記されていることから、俳優のルーツとも言われている。 「天孫降臨」に際しては、天の八衢(やちまた)において一行を待っていた猨田毘古神に名を問う役を命じられ、この時もやはり裸になって猨田毘古神を誘惑して理由を聞き出し(猨田毘古神は彼らを先導するために馳せ参じた)、見事にその役目を遂行している。この縁で猨田毘古神と天宇受売命は結婚し、その子孫は「猨女君(さるめのきみ)」と称するようになったと言う。

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